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一流選手のメンタリティ 《大谷翔平》
インタビューで来年の抱負を聞かれた大谷翔平は「今年は最低ライン。来年はそれを超える努力を続けて行きたい」と答えた。
2021年、世界のプロ野球界でとてつもない偉業を達成し、それでも成長すると断言している大谷翔平だが、大谷の父は「普通の人だ」という。
『メジャーリーガー 大谷翔平〜2021 超進化を語る〜』(NHKスペシャル)を見た今では私も、大谷は普通の人なのだろうと理解する。
彼は怪物や宇宙人ではない。
小さい頃からずば抜けた何かを持っていたのでもない。
騒がれ続けて育った存在ではない。
つまり生まれながらの天才ではない。
あえて普通の人との違いを挙げるとすれば、それは成長することを疑わないメンタリティだろう。
大谷は「今日ダメだったところが明日上達するためにはどうすれば良いのか常に考えている。そんな時間が好きです」と答えている。
「試して、反省する。試して、反省する。これを続けるだけ」とも言っている。
そうやって、常に成長し続けることが彼の日常であり、成長のためになりそうなことは試してみる。試してみるかどうかは考えたりしない。試して駄目なら次の手を探す。
このようなやり方はトライアル&エラーと言われ、人が学び成長するための行動様式のひとつだ。幼児は誰でもやっているこのやり方を、大谷は大人になって名プレーヤーとなった今でも続けている。
特別なトレーニングをしている訳ではない。
「何も難しいことはしていません。誰でも出来ることをしているだけ」
動作としては誰でも出来ることをひたすら続ける。この続けるということが、人はなかなか出来ない。
重要なのは、その時の自分に足りないものを補うために必要なことを行うということだ。そのためには、今の自分の状態を自分自身が正しく客観的に把握出来ていなければならない。
大谷がそれを出来ているのは、きっと彼が言葉によって反省をしているからだ。
今日駄目だったところを、誰もが理解出来る形で言葉にすることで、自分を客観視出来る。だから、次の自分になるために必要なことが見えてくる。
それは彼のインタビューへの受け答えで語られる言葉が、ちゃんと文章になっていて分かりやすいことからも伺える。
MVPを取った今に至っても自分が変わるべき点を発見し続けているという。インタビューを受けた同僚のひとりは「彼は本当に毎日成長しているんだ。驚くべきことだ」と言っている。
努力を続けることで今の大谷が出来上がったのだとして、なぜ彼は地味な努力をずっと続けることが出来るのか。
「努力を続けられる能力」というものがあったとすれば、その能力を持っている人こそが成功者になれるということだろう。
努力を続けられる環境にいられるということも重要だ。やりたくてもやれない状況という人もたくさんいる。一方で、環境や状況は許すはずなのに、努力を続けることが苦手な人は多いと思う。
私が思うに、大谷が成長のための努力を1秒たりとも休まずに続けられるのは、彼が自分が成長するということを1ミリたりとも疑っていないからだ。試してみてもそれが身にならないことが多いことも彼は十分承知している。それでも諦めないのは、試したこと自体によって自分が1ミクロンかもしれないが前に進んでいることを彼自身が疑っていないからだ。
停滞や後退しない限り、1秒前の自分よりも今の自分は成長している。
三振に終わった打席からベンチに戻るやいなや映像で自分を振り返る大谷はその時点で既に前に進んでいる。つまり、成長している。そうやって彼は成長を続けている。
それは、そうすることが自分を成長させることを彼が心底理解しているからだ。
成長することにフォーカスすることで、常に成長の余地を見つける目が養われる。ここをもう少しこうすれば良いんじゃないか、と。けれどその思いつきは大抵杞憂に終わる。それでも、絶え間なく浮かび上がる思いつきを試している中で、ほんの少しだけ上手くいくことを見つける。その「ほんの少しの成長」はきっと我々には気づかないくらい小さなことだろう。でも成長を続けた人間には、小さな小さな違いが見える。これは成長するためには大きなことだ。
学習した時間と習熟度の関係性を表す学習曲線という考え方がある。
学習曲線でも、成長の過程でスランプに出会うことが示されている。しかし、スランプは全く成長しない時期なのではなく、成長速度が一時的に低下している時期。つまり、緩やかな成長時期のことだ。
大谷の成績が不調なときに私達は安易に彼はスランプだなどと言ってはいけない。彼の成長が我々に見えない時期というだけだ。
意図的なフォアボールで敬遠され続けて、傍から見れば成績が伸び悩んでいた時期に大谷は「成長のための良い機会」と考えていたという。お陰で選球眼が研ぎ澄まされ、打てるゾーンが広がったと。
明日の自分が今日よりもほんの僅かでも成長するために、今何が必要で何が出来るかを考え抜き、それを一生懸命に取り組む。
成長が目に見えるには時間が掛かる。だから、やったことでどれだけ自分が成長出来たのかではなく、どれだけ毎日一生懸命出来ているかを指標とした方が良い。
来年は、自分が常に前に進んでいることを信じ、一生懸命の日数を継続することを目標にしたいと思った。
おわり
「大谷は二刀流をやる目的でこのチームに来た。大谷のキャリアは彼のものであって、私やチームのものではない。だから(登板前後に休ませるという)大谷ルールをやめて彼には自由にやらせたい」(ジョー・マドン、ロサンゼルス・エンゼルス監督)