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『二人の記憶』第49回 自動ミルク授乳?

 赤ちゃん用品専門店で昇太郎がたまたま見つけてハイローベッド&チェアというのを買った。ベビーカーとクーハンとチェアを一体化させた様な室内用の製品だ。赤ちゃんが落ちないように高い囲いのような縁が全周にあって、リクライニングとテーブルが付属する。キャスター付きで室内移動もラク。
 碧をいつまでも床に寝かせておくわけにはいかないとアコは思っていたらしく、昇太郎がアコに見せると「これいいね! 買っていい?」となった。確かに少し値が張ったが、これなら食卓で一緒にいられるし、高さが変えられるので椅子に座ったまま世話がしやすい。

 家に帰って昇太郎が開封してみると、思いの外に大きいのに少々面食らった。店で見たときはここまでの大きさを想像していなかった。
「アコ、どうかな? かなり大きいけど」と恐る恐る言うと、
「そうでもないんじゃない? ベビーカーが家の中にあると思ったら邪魔かもなとは私思ってたから。だから大きさは予想通り。カワイイし全然いいよ」と言って抱いていた碧をハイローベッドに寝かせた。
 碧はぐずりもせず心地よさげに目を閉じて、ハイローベッドの囲いの中で小さく見えた。
「ちょうどいいね」とアコも満足気。
「しょーたろー、ちょっとミルク作ってきてみて?」
 母乳派じゃなかったっけと思った昇太郎を見越してかアコは、さっきアオくんに乳首噛まれて痛くなっちゃったから、と舌を出す。ん?

 手の中で転がして哺乳瓶を少し冷ましながら昇太郎が行くと、碧が何故かパッと目を開けて昇太郎を見た。
「おっ、こいつ寝てたのにミルクの匂いが分かったのか?」
 アコがフラットだったハイローベッドの背もたれを少しだけ起こし、碧を上にずらしてミルクを飲む態勢を作った。碧のお腹の上にタオルを置き、昇太郎が持っていた哺乳瓶をありがとと言って手に取ると、その哺乳瓶の吸口を碧の口に持っていった。碧は一瞬手をバタつかせた後、吸口を咥え込んでグイグイ飲み始めた。
 アコが哺乳瓶を持ち上げて引っ張っても簡単には放さない。
「さっきこの勢いで噛まれたんだから」とアコが昇太郎を振り返って言う。
「でもまだ歯が生えて無いよね」
「それがね、下に少し白いのが見えるから生えてきてるかも」
「嘘、早いね。まだ自分で座れるかどうかと言うときに」
「だから、噛まれるとちょー痛いよ。見せよっか」とアコは着ていたTシャツの裾を捲くろうとするので昇太郎は「分かった。見なくてもいいよ」と制した。そして小さな声で、余計なライバルが出来ちゃったなと言うと、「そうだよ、しょーたろーもガンバってね」とアコ。丸聞こえだったみたいだ。

 「見て! これなら哺乳瓶を持ってあげなくても勝手に飲んでくれる」とアコが大発明のように叫ぶ。
 見ると哺乳瓶はお腹の上のタオルの上に置かれ、碧はハンドフリーで吸口を吸ってミルクを飲んでいた。
「確かに、いいかもね」

つづく


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