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タイパとメンタル

 人間の能力は侮れない。
 最初に動画を1.25倍の速度で再生したときは、こりゃどうしても急ぎたい時以外は等倍再生の方がやっぱり良いなと思ったものの、数日後には1.25倍どころか1.5倍でも余裕を感じるようになっている。
 速度を早めても聴き取りだけに関して言えば、それ程の違和感を抱かなくなる。つまり「ふつう」に聞こえるようになる。

 音と違って動く画の方はコマがスキップされてしまうので、1.5倍では流石にキツイ。見落としたシーンの確認のために度々等倍で巻き戻す位なら速度を上げすぎない方が良い。
 動画の画はコマ送りのパラパラ漫画。つまり究極のデジタルだ。コマとコマの間のブランクを埋めるのは視覚的錯覚だから、再生速度を上げるには表示するコマを少なくすれば良い。
 それに対して音は、デジタルで収録されていたとしても耳に届く段階ではアナログ。だから伸び縮みさせることが出来る。再生速度を上げてもピッチだけ調整さえすればある程度の速度までは滑らかに再生出来るため聴き取れる。

 流石にドラマなどは速度を上げてみたいとは思わないな、と思っていたらそれでは駄目らしい。タイパ、つまりタイムパフォーマンスを求めれば自ずと再生速度アップが必要で、サブスクに溢れる数多くの動画を消化するために、世の人々は等倍再生などでは見ていないようだ。倍速再生信者たちは、ドラマの中での芝居の間は邪魔なだけというから役者も演出家もやるせない。それどころかそのうちに1.25倍速の演技が求められるようになるかもだ。

 演技の間の話はさておき、脳の順能力によって高速再生をしても普通に見られるようになるとすれば、単なる情報取得目的ではない動画であっても高速再生需要は高まるだろう。ドラマだろうが映画だろうが、少し慣れれば普通の人でも脳が処理できるスピードまでなら、ドラマとしての質が落ちることはあまりないのかも知れない。
 そうなれば、1.25倍速再生を売りにする映画館も出てきそうだ。館側だってタイパが良くなるから安く提供出来ることになる。

 しかし、少し恐ろしくもある。
 映画やドラマは、話の筋や事の成り行きといった物語要素を軸にして、見ている側の感情を揺さぶる。倍速再生に慣れた暁に揺さぶられる感情の速度まで倍速になったりしたら、やたらと感情の起伏が激しい人が増え、激しい感情のアップダウンが無いと物足りないという人が増えそうだ。
 人間のメンタルは脳力ほど簡単には開発出来ないから、どうにかしてメンタル耐性を上げておかないと、満足に映画も楽しめなくなりそうで怖い。

おわり


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