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《シリーズ》政府のお財布 番外編 世界の中の日本の給与

褒めて伸ばすという方針なのだろうか、日本政府は。
様々な困難に遭いながらもあななたちは頑張っていますよ、日経平均株価だって3万円まで行ってるじゃないですか、だからもっと頑張りましょう、と。

OECD(経済協力開発機構、ヨーロッパ諸国を中心に日・米を含め38ヶ国の先進国が加盟する国際機関)の調査の結果を取り上げた記事があった。

 これを読めば、日本の所得水準の低さが分かる。

 この記事に刺激され、元データを類ってみた。
 つまりOECDが公表しているデータを見てみることにしよう。


OECD加盟国の平均賃金

 OECDのデータページの検索窓で、平均賃金(Average Wages)で検索すると下図のようなグラフが見れる(下図にリンクを張ってあるので試して欲しい)。
 これは米ドル換算の年間平均賃金を並べたものだ。
 棒グラフの日本を赤くマーキングしてみた。黒いのはOECDの平均値だ。日本は平均よりもかなり低く、全体の4分の1くらいの位置だ。
 記事にあるように日本の順位は22位となっている。

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OECD加盟国の平均賃金(2020年)

日本の平均賃金の比較

アメリカと日本だけを取り出して並べてみると下図のような感じだ。
グラフの下に日本の幅と同じブロックを2つ並べてみた。
アメリカの平均賃金は日本の2倍弱ということだ。

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アメリカと日本の平均賃金比較


アメリカの場合は賃金格差が大きそうなので、高所得者層が平均額を強烈に押し上げている可能性がある。そこで、学歴所得格差が日本とあまり変わりないルクセンブルク(平均賃金3位)と比較してみると下図のようになる。

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ルクセンブルクと日本の平均賃金比較


アメリカの時と大差はない。
やっぱり日本の賃金は低く見える。

平均賃金の推移

OECDのサイトからはデータのCSVファイルをダウンロード出来るので、これを利用して幾つかの国をピックアップし、順位の推移をグラフ化してみると下図のようになった。
ピックアップしたのは、韓国(KOR)、ニュージーランド(NZL)、日本(JPN)、スペイン(ESP)、イタリア(ITA)、オーストラリア(AUS)、そしてアメリカ(USA)だ。

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平均賃金順位の推移


日本はピンク色の線だが、ジリ貧なのがよく分かる。
良く見るとイタリアとスペインも日本と似ている。
日本の場合、消費税増税があった1997年、2014年の少し後に落ち込んでいるようにも見える(2019年の後は上がっているが)。
アメリカが思ったほど上がっていないと思うかもしれないが、これは順位なのでそう見えるだけだ。
そこで順位ではなく平均賃金でグラフ化すると下図のようになった。

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平均賃金の推移

 ピックアップしている国の選び方のせいだが、アメリカの一人勝ちに見える。このグラフには無いが、実際にはアメリカとほぼ同じ値で推移しているのがスイス、ルクセンブルクだ。これらが第一集団だとすれば、第二集団はオランダ、ベルギー、デンマーク、オーストリア、オーストリアといった国々だ。これらの国々は1990年からずっと年率1.2%くらいの右肩上がりになっている。
 上のグラフでは、他の国々が上昇傾向にあるのに対して、日本、イタリア、スペインは横ばいであるのが分かる。
 平均賃金の額で見ると消費税増税とは無関係に綺麗に水平になっている。
 消費税増税は賃金に影響しないものの、世界の成長に取り残されることに寄与したということだろうか。
 1990年には日本の遥か下にいた韓国に日本が抜かれたのは2015年のことだ。これはたまたま消費税増税の翌年だ。

OECD加盟国のGDP

同様にOECDのdataページでGDPで検索すると下図のグラフが見れる。
ここでも日本の順位は思っていたほどではない。黒で表されているOECD平均より下であることは違いない。
(後で気づいたが日本語のページもあった)

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OECD加盟国のGDP(2020年、一人あたり)

ダウンロードしたデータをもとに、国ごとのGDPをグラフにすると下図のようになる。矢印が日本だ。OECD加盟国第二位。
青い棒グラフの一番右はアメリカ、欄外に赤い棒で書いたのが中国だ。

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OECD加盟国のGDP(2020年、国ごと)


GDPだけを眺めていても良く分からないので、平均賃金とGDPの相関を見てみようと思い、下のグラフを作った。
ただし、アメリカはGDPが突出しすぎていてグラフからはみ出てしまっている。矢印を付けたのが日本だ。

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平均賃金とGDP
(アメリカを除く)

 
 GDPは国内総生産と言い、国内で新たに生み出されたモノやサービスの付加価値を指すと言われ、国の経済力の目安とされる。
 日本はこのグラフで見ると突出してGDPが高いが、平均賃金がそれほど高くない。つまり国の経済力はあるのに、国民の経済力は無いということになるのだろうか。
 このページでGDPについての解説をちょっと見てみると、下のような解説図があった。

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 つまり、GDPで表される国の経済力には、政府支出が含まれている。
 このページで2020年の日本のGDP内訳を見てみると下図のようになっている。

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 政府支出の割合は以外と少ない。むしろ多いのが民間最終消費支出。
 日本は賃金は低いのにむちゃくちゃ消費しているってこと?
 いやいや、日本は人口がむっちゃ多いやん?
 じゃあ、改めて一人あたりのGDPで見てみよ。という訳で、このサイトの表を見てみる。

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OECDのグラフでも見た通り、一人あたりのだと低いんだよね。
そこで一人あたりのGDPと平均賃金の相関を見てみる。

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一人あたりのGDPと平均賃金

 単純にGDPと平均賃金を比較した時よりも相関が見られるようなグラフになっている。つまり、一人あたりGDPが上がれば平均賃金も上がると。
 ところが、日本の場合は、この相関性のやや下の方にいることが分かる。要するに他国に比べて一人あたりのGDPほどには賃金が高くはない


OECD加盟国の労働生産性

 賃金が高くない理由(?)として良く言われる生産性についてもOECDのデータを見てみよう。
 下のグラフは労働生産性と稼働率(Labour productivity and utilisation)についてのものだ。

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労働生産性と稼働率

 一部の国を除いて各国横ばいのようにも見えるが、日本は下の方と言ってよいだろう。ちなみに一番の国はコロンビアだ。なぜだろう。

 OECDのデータには労働時間当たりのGDP(GDP per hour worked)という指標もある。
 それが下のグラフだ。

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労働時間当たりのGDP

 赤いのが日本。確かに日本の生産性は低いと言われても仕方がない。

さいごに

 ここ日本では、低い賃金でむっちゃ仕事に時間を費やして、先進国のなかでは平均よりも低いGDPを産出している。しかもこの労働時間にはサービス残業は含まれていないだろう。
 残業代頼みの日本では仕事時間を減らせばさらに賃金は減る。賃金の低さは労働対価の低さが要因だ。だからこそ残業が必要になる。
 現状の賃金水準のまま生産性を上げるということは残業が減るということでもあり、今でさえ世界の先進国水準より低い賃金がもっと低くなってしまう。
 賃金水準を上げて、あえて残業代を稼がなくても家計が成り立つような好循環にする必要がある。

 ただ、鶏と玉子のようではあるが、どちらかと言えば順番的には賃金を上げる方が先にはなりにくい。なぜなら、賃金を上げて残業が減らなかった場合、企業にとってはダブルパンチになってしまうからだ。
 だから、生産性つまり仕事の時間当たりアウトプットを増やすことで労働時間を減らし、一時的に企業の人件費負担が軽くなったところで、賃金を上げていくという手順が現実的になってくる。

 こんな事を言うと、弱い立場の労働者の側が先に身を切れというのか! と言われそうだ。
 企業と労働者のどちらが弱者かといえば、1対1で考えれば圧倒的に企業の方が強者だが、1対多で考えると場合によっては企業の方が弱者になる点が事を難しくしている。

 ともかく、OECD加盟国で2位のGDPを稼ぐ日本は、人の数の多さと国民の犠牲の上に成り立っていると言っても言い過ぎではないだろう。

おまけ

 最後に、本日のビックマック価格を見ておこう。

 アメリカ、ニューヨーク州では、$5.23
 日本では全国一律390円。
 今日のドル円=115.1円/ドルとすると、日本では$3.39

 つまり、日本のビッグマックはニューヨークの約65%の値段。
 ニューヨークで21日間毎日3食ビッグマックを食べるだけの費用で、日本では1ヶ月以上食べられることになる(そんなに食べたくないが)。

 ここまでは表示価格の話。

 けれど、平均賃金で見ると日本はアメリカの約55.5%だから、日本のビックマック価格は世界的にはかなり安いと見えるはずだ。
 日本人にとっては、ニューヨークの人がビックマックの価格に対して思うよりも高く感じているということになる。
 実際、ビックマック・セットって食事としては実は高くね? 普通に定食食べられる値段だし。と思う人も多いのではないか。

 この考え方、つまり他の国との賃金格差を加味して言うと、例えばニューヨーカーから見れば日本のビックマックは$1.88程度($3.39 ✕ 55.5%)、つまり日本円で216円に見えることになる。
 つまり日本人は216円の価値のビックマックを1.8倍の390円で買わされている(ように高く感じている)が、ニューヨーカーから見れば、自分たちが600円で食べているビックマックを日本人は216円で食べられるように見えるということだ。   
日本は食費が俺たちの3分の1だぜ、ちょー安くていいなー! と思われているということだ。
 いつの間にか日本の価値はアメリカの3分の1になってしまっているのだ。
 だから、ニューヨークの10日分の食費で日本では1ヶ月食えるということになる(ビックマックの場合)。

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ニューヨークと日本での感覚的ビックマック価格差


 ちなみにアメリカでビッグマックを食べるなら、消費税を度外視すればミシシッピ州が一番安い。ミシシッピ州ではビッグマックが$3.91だ。
 州によって違うんだね。
 それでも日本よりだいぶ高いけど。

おわり


 
 
 

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