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佐々木先生のこと

自分で言うのもあれだけど,私は世間的には頭がいい方だと思う。

けど小学校高学年から中学2年生までは学校の成績はあまりよくなかった。

幼少期は祖父から神童扱いされていたが,全然だった。

その祖父は私が小3のときに亡くなっていて,孫が実は馬鹿だったと発覚する前に天国に行けたのはよかったなと思っていた。

中1の担任からは家庭訪問で「知能テストはクラスで1番なのに,定期テストではどうしてこんなに点を取れないのか」と怒られた。

定期テストで点を取れなかった理由は,テスト勉強をしていなかったからだ。ゲームばかりしていたのもあったが,そもそもテスト勉強をする必要があるとは思ってなかったし,何をしたらいいのかをわかっていなかった。

親もたぶん私のことを賢い子だと思っていたと思うのだが,学校の成績があまりにも悪いので,塾に行かせてくれた。

そこでは「復文」を含め,勉強の仕方をしっかりと教えてくれたので,成績は笑えるくらい上がった。(やっぱり俺は賢かったのだ)と自信を取り戻した。

しかし,上位クラスに入ると周りはできるやつばかりなので,(ああ,やっぱり俺は大したことはなかったのだ…)と自己評価は乱高下。

中3の夏合宿では最上位クラスの真ん中くらいの座席で(前から成績順),視界に入る連中はとんでもなく賢いやつばかり。先生から何を問われても即座に正解している。

(やっぱり俺なんて凡人だなあ)と悔しく思いつつも,苦手の数学の授業で居眠りをしてしまった。今思えば,夏合宿は馬鹿げた時間割で,そりゃ寝て当たり前なのだが。

その授業は普段教わっている,やさしいやさしい佐々木先生だったから,ちょっと舐めていたのも居眠りの理由だった。他の怖い先生のときは寝なかったから。

「田中君!」

先生の甲高い声で起こされた。佐々木先生がこんなに大きな声を出すのは初めてだった。怒られると思った。

「どうしたんですか。いつもの冴えがないですよ」

怒られなかった。やっぱり佐々木先生はやさしかった。

「いつもの冴えがない」ということは,普段の俺は冴えてるのか。俺はそう解釈した。やっぱり俺は賢かったんだ。

佐々木先生はたぶん俺のことを覚えていないし,箱根合宿でのこの出来事のことなんて忘れているだろう。

けど30年以上たった今でも,俺は忘れていません。

佐々木先生の甲高い声。舌足らずな話し方。モジャモジャでボサボサの髪。眼鏡の奥の優しいまなざし。

佐々木先生,ありがとうございました。先生のおかげで自信を持てるようになりました。

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大手予備校英語科講師であり『世界が広がる英文読解』や『英文法基礎10題ドリル』などの著者でもある田中…

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