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『モノマネMONSTER』が画期的なものまね特番である、たったひとつの理由

 新番組にして、画期的。このものまね特番を観た時、そう思った。

 ものまね特番なら、他にも数多くある。『ものまねグランプリ』(日テレ)、『ものまね紅白歌合戦』(フジテレビ)など、特番シーズンの風物詩となった番組もある。

 そうしたなか、すでに『ものまねグランプリ』を擁する日テレが、新たなものまね特番『モノマネMONSTER』をくり出した。この番組は、新番組ならではの挑戦的な試みにより、近年のものまね番組が直面している課題を乗り越えようとしている。
 その課題とは何か。ものまねショーにおける「多様性の担保」と「競争の盛り上がり」を両立することである。

 結論から言えば、『モノマネMONSTER』は、「細かいジャンル分け」と「ジャンル内での対決」の形式を採用することで、ものまね特番における「多様性の担保」と「競争の盛り上がり」の両立を試みている。

ものまね芸の多様化

 近年、ものまね芸のジャンルが多様化していた。その一方で、権威あるものまね特番における競争の方式は、ジャンルの多様化に対応しきれていなかった。

 ものまね芸にもジャンルがある。以下では仮に、笑いをとりにいくものまね芸(例:神奈月による井上陽水の喋りものまね)を「ネタものまね」、ご本人の完コピを目指すものまね芸(例:よよよちゃんによるAdoの歌ものまね)を「ガチものまね」と呼ぶことにしよう。

 「ネタものまね」で一世を風靡し「ものまね帝王」とまで称されたコロッケの『ものまねグランプリ』引退は、大きな転機だった。このできごとは、ものまね芸の重心が「編集の芸当」から「引用の模倣」に移ったことの象徴であった。この話は下記の拙稿でも取り上げている。

 2022年末以降のものまね特番においては、「編集の芸当」から「引用の模倣」への移行が加速した。言い換えれば、「ガチものまね」の台頭と「ネタものまね」の周縁化が目立つようになった。

 ものまねのネタは多様化した。「ネタものまね」と同じくらい、あるいはそれ以上に「ガチものまね」の名プレイヤーが数多く出てきた。だが、トーナメントなどの対決方式でネタを競わせるという、番組の進め方は変わらない。その結果、「ガチものまね」と「ネタものまね」が同じ土俵で戦うという、奇妙な状況が生じていた。

多様化した芸を競わせることの難しさ

「ネタものまね」と「ガチものまね」は、ものまね芸という括りでは同じである。しかし、ふたつの芸の目指すものは全く異なる。「ネタものまね」は笑い(例:五木ひろしがロボットになるわけないじゃんwww)、「ガチものまね」は驚き(例:すごい…本物のAdoみたいな歌声だ…)を起こそうとしている。目指すものが異なる芸を、同じ土俵で評価しようとするのは難しい。

 そのうえ勝敗は、ひな壇の審査員や観覧の観客による採点・投票で決まる。審査員席にも観客席にも、ものまね芸のパフォーマーを見かけることはほとんどない。これでは、勝敗の結果は、主観に基づく主観的・流動的なものになりがちだ。
 単純化して言えば、審査員に「ガチものまね」を好む人が多ければ、「ガチものまね」のネタが有利になる。逆も然りだ。

 しかし、観る側からすれば、決勝進出/予選敗退、あるいは優勝した/していない、という結果が出てしまえば、予選で敗退したネタよりも決勝に進出したネタ、優勝していないネタよりも優勝したネタの方が「優れている」、と錯覚してもおかしくない。

「ネタものまね」と「ガチものまね」は、そもそも目指しているものが違う。それらの間に順位や勝敗をつけるのは、相当難しいことのはずだ。
 だが実際には、比較不能なはずのジャンル同士を混在させ、結果の流動性の高い方式のもとで競わせている。その結果、「ネタものまね」よりも「ガチものまね」の方が優れている、という「空気」が次第に形成されつつあった。

 ものまね芸のジャンルは多様化した。しかし、既存のものまね特番における対決の方式は変わらなかった。その結果、「競争の盛り上がり」を演出するために、「多様性の担保」が後手に回っていた。

『モノマネMONSTER』の画期性

 そうした状況の中で突如現れたのが『モノマネMONSTER』だ。この番組は、新番組ならではの挑戦的な取り組みにより、「多様性の担保」と「競争の盛り上がり」の両立を試みている。

『モノマネMONSTER』は、ものまね芸を細かくジャンル分けする。具体的な部門名は「ガチ歌」「多分こうだろう」「勝手にアンコールライブ」「ギャップ」である。加えて番組内では、幕間の小ネタとして「街にいそうな人モノマネ」もあった。これだけ細かく区分すれば、様々なタイプのものまね芸を観ることができる。
 こうして「多様性の担保」が可能となる。

 細かい区分でネタ見せをするだけではない。『モノマネMONSTER』では、上記の細かいジャンル別に演者たちがものまね芸を披露し、最優秀賞を決める。これなら、同じジャンルのものまね芸同士を、同じ土俵で比較することができる。優れたネタを複数見たうえで、誰が1位になるのかを予測し見守るドキドキ感もある。
 こうして「競争の盛り上がり」が生まれる。

 この方式なら、「多様性の担保」をしつつ、「競争の盛り上がり」を楽しむこともできる。

『モノマネMONSTER』は、「細かいジャンル分け」と「ジャンル内での順位決め」という方式をとることにより、「多様性の担保」と「競争の盛り上がり」の両立を可能にした。このような方式が広まれば、ものまね特番は、レベルの高いものまね芸を多様なジャンルで楽しむことができる場になりうる。


 ものまね芸は演者もジャンルも多彩になった。「競争の盛り上がり」も大事だが、ものまね芸自体を持続的に発展させるためには「多様性の担保」も重要だ。ものまね特番において、「多様性の担保」と「競争の盛り上がり」を両立する。この挑戦が、既存のものまね特番に変化をもたらすのか。夏の特番シーズンが楽しみだ。

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