サザビーズで阮朝皇族のコレクションがオークションに
この十一月、パリで催されるサザビーズのオークションで、「壮麗と威厳(Magnificence and Regality)と題して、皇族グエン・フック・ブー・ロック・コレクションのオークションが行われる。
出展作品は十六点。内訳はベトナム人画家の作品8点、家具1点、そして主に清朝時代の陶器などの置物が7点である。
注目される作品は、レ・フォー、ヴー・カオ・ダムらが1930〜40年代に描いた絹絵3点だ。
二人は第二次世界大戦前にベトナムからフランスに移住、そのままベトナムに戻らず、フランスで画業を続けた作家である。その作品はボナール、マチス、シャガールなどフランスの画壇の影響を強く受けた作品で、オークションにかけられる作品も油絵がほとんどだった。
ベトナムの絹絵の技法は、漆画と同様、1930年代のインドシナ美術学校で開発された、伝統的な技法を近代的なものへと昇華させたもの。それらの技法でこの二人の画家が描いた作品が世に出たのは美術史的にも価値が高い。
レ・フォーの作品は「鴛鴦と蓮」と題された作品で、絹地にインクとグアッシュで描かれている。鴛鴦と蓮というモチーフは中国の吉祥画によくみられる題材で、夫婦円満を意味するものだそうだ。ヴー・カオ・ダムは「百合」「闘鶏」の二点、いずれもベトナム的な題材をモチーフに描いている。
コレクターの皇族ブー・ロック氏は1914年フエ生まれ。阮朝二代ミンマン帝11番目の皇子の末裔。阮朝最後の国王バオダイ帝の叔父で、北ベトナムの保健大臣も務めたファム・ゴック・タックとは従兄弟同士だという。
彼は1949年から55年まで存在したフランス傀儡国家「ベトナム国」の首相も務めたが、ゴ・ディン・ジエムとの政争に敗れ、以後はフランスに暮らした。
ブー・ロック氏の息子によれば、アパートの居間に飾られていた作品で、二人の画家とも同国人として交流もあった。出所も間違いないとあって、作品は高値を呼ぶことが予想される。
日本ベトナム友好協会機関紙「日本とベトナム」2023年11月号掲載