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「自分の内側の傷ついた子どもを癒す」(タイを特集した雑誌でのタイの言葉より)


【自分の内側の傷ついた子どもを癒す】

1.自分の内側の傷ついた子ども(インナーチャイルド)
私たち一人一人の内側には苦しみを抱えた小さな子どもがいます。私たちの誰もが子どもの時に困難を経験し、そしてトラウマを経験している人も多くいます。自分を未来の苦しみから守るために、それらの苦難の時について忘れようとします。苦しみの経験に出会うと、それに耐えることはできないと思い込み、自分の感情や記憶を無意識の奥にしまいこみます。何十年もその思いに向き合わないままのこともあります。

しかし、私たちがその子どもを無視したからといって、それがなくなるというわけではありません。傷ついた子どもはいつもそこにいて、私たちの注意を集めようとしています。その子どもは「ここにいるよ。ここにいるよ。私のこと避けられないよ。私から逃げることはできないよ。」と言っています。私たち自分の苦しみを終わらせるために、その子どもを奥深くに送ってできる限り遠ざけようとします。でも、そこから逃げるということはその苦しみを終わらせることにはならないのです。それを長引かせるだけです。

その傷ついた子どもは愛と思いやりを求めています。でも私たちがやっていることはその逆です。苦しむことを恐れて逃げています。苦しみや悲しみが大きすぎると感じるのです。時間があっても、自分の心の内側の我が家に帰ることをしません。自分自身を何か楽しいことで(例えばテレビや映画を見たり、誰かに会ったり、アルコールやドラッグを使って)ごまかして、二度と同じ苦しみを経験しないようにします。

その傷ついた子どもはそこにいますが、私たちはそこにいるということにすら気がつきません。私たちの内側にいる傷ついた子ども、というのはそこに確かにいるけれども、私たちはそれを見ることができません。見ることができないということは、無知の一種です。その子どもはひどく傷ついています。私たちが帰ってくることを必要としているのです。避ける代わりに。

無知は私たちの身体と意識の細胞の一つ一つの中にあります。それはコップの水の中に落ちて広がったインクのようなものです。無知は私たちの現実を見えなくさせます。愚かなことをことをさせ、さらにその子どもを傷つけるようなことをして、より苦しむことになります。

その傷ついた子どもはまた身体の細胞の一つ一つの中にいます。傷ついた子どもを抱えていない細胞などありません。その子どもを探して遠くを見る必要はないのです。ただ深く見れば、その子どもに触れることができます。傷ついた子どもの苦しみは私たちの内側に今この瞬間にあるのです。

でも、苦しみが私たちの身体の細胞の一つ一つにあるように、我々の祖先から手渡された理解や幸せの種もまたそこにはあります。それをただ使うことが必要なのです。私たちの内側に灯があります。それはマインドフルネスの灯です。いつでも灯すことができます。そのランプの油となるのは私たちの呼吸であり、歩みであり、平和に満ちた微笑みです。私たちは暗闇を照らすためにマインドフルネスの灯をともさなくてはいけません。私たちのプラクティスというのはランプにあかりをともすということなのです。

自分の傷ついた子どもについて忘れていたと気づいたとき、その子どもに対して慈しみの気持ちを感じるようになり、マインドフルネスのエネルギーが湧き上がってきます。歩く瞑想や、座る瞑想、そしてマインドフルな呼吸がその基礎となります。マインドフルな呼吸や歩みによって、私たちはマインドフルなエネルギーを作り出し、私たちの細胞の中にある智慧に戻ってくることができます。そのエネルギーは私たちを抱きしめ、癒し、私たちの中の傷ついた子どもを癒していくのです。


2.マインドフルネスのエネルギー

マインドフルネスのエネルギーは自分のうちにいる子どもに気づき、癒す薬となります。でも、そのエネルギーをどのように培うことができるのでしょうか?

仏教心理学では意識を二つに分けます。一つは意識であり、もう一つは蔵識です。意識は私たちのアクティブな認識です。西洋の心理学では顕在意識と呼ばれます。マインドフルネスのエネルギー培うために、私たちの意識を自分のやっている事全てに向けて、どんなことをやっていてもそれとともにあろうとします。お茶を飲むとき、街に向かうために車に乗るときにマインドフルになろうとします。歩くときには歩いていることに気づこうとします。呼吸をする時には、呼吸に気づこうとします。

蔵識(阿頼耶識、根底意識とも呼ばれる)は私たちの意識の基礎です。西洋心理学では「無意識」と呼ばれます。それは私たちの過去の経験のすべてが貯蔵されているところです。蔵識は学び、情報を処理する力があります。

私たちの心が身体と共にいないということがよくあります。時としてまったく意識しないで日常生活を送っていることもあります。無意識に多くのことを行うことが可能で、それと同時に意識ではいくつもの違うことを考えることができます。たとえば、車を運転するとき、車の運転については全く考えなくても目的地まで迷ったり事故を起こすことなくたどり着くことができます。それは蔵識が働いているからなのです。

意識というのは家のようなもので、蔵識は地下室で、表に現れる意識はリビングルームのようなものです。怒り、悲しみ、喜びのような心の形成物は私たちの蔵識に種の形で貯蔵されています。私たちの中には怒り、絶望、差別、恐れの種と、マインドフルネス、思いやり、理解の種などがあります。蔵識は種全体からなりたっていて、すべての種を保存し維持する土壌となります。種はそこにあって私たちが聞き、見て、読み、考える、その種にふれて怒りや喜び、悲しみを感じるようになります。これは種が意識まで上がってきて現われたということであり、私たちのリビングルームまでやってきたということです。そうするともはや種ではなくなり、心の形成物と呼びます。

誰かが何かを言ったり行ったことで、私たちの中の怒りの種にふれて動揺すると、怒りの種が浮かび上がり意識に現れ、怒りという心の形成物として出てきます。「形成物」というのは仏教用語で多くの条件によって成り立つ創造物のことを言います。マーカーペンは形成物であり、私たちの手や花、テーブル、家は全て形成物です。家は物質的な形成物であり、怒りは心の形成物です。仏教心理学では51の種があると言いますが怒りはそのうちの一つです。蔵識では怒りは種と呼ばれ、意識に上がるとそれは心の形成物と呼ばれます。

種、たとえば怒りの種が私たちのリビングルームにあがってきて、心の形成物として現れた時に、まずできることはマインドフルネスの種にふれそれもまた現れるように招くことです。そうすると二つの心の形成物がリビングルームの中にいることになります。それは怒りへのマインドフルネスになります。マインドフルネスとはいつも何かに対するマインドフルネスなのです。マインドフルに呼吸をするときには、それはマインドフルな呼吸となり、マインドフルに歩くときにはマインドフルな歩みとなり、マインドフルに食べる時にはマインドフルな食事になります。だからこの時で言うと、マインドフルネスはマインドフルな怒りなのです。怒りを見つめ、抱きしめるマインドフルネスです。

私たちのプラクティスは非二元的な智慧に基づいています。怒りもまた敵ではないのです。マインドフルネスと怒りはどちらも私たち自身なのです。マインドフルネスは怒りを抑圧し戦うためにそこにあるのではなく、それをみつめてケアをするためにあります。お兄さんが弟の面倒を見るように。怒りがマインドフルネスのエネルギーによって認識され、やさしく抱きしめられます。

マインドフルネスのエネルギーが必要な時にはいつでも、マインドフルな呼吸や歩み、微笑みの種にふれると、認識して抱きしめ、深く見つめ変容をもたらすエネルギーが働くようになります。何をするにしても、料理、掃除、皿洗い、歩くこと、呼吸に気づき、マインドフルネスのエネルギーを引き出し、私たちの内側のマインドフルネスの種を強めることができます。マインドフルネスの種の内側には集中の種があり、それらの二つをエネルギーにより、執着から自分を自由にすることができます。

3.心は良い循環を必要とする。

私たちは自分の身体の中に毒が含まれていることをしっています。もし血液がうまく循環しなければそれらの毒は蓄積していきます。健康であるためにはその毒を輩出する必要があります。血が上手く循環し、肝臓や膵臓がうまく機能している時には毒を輩出することができます。マッサージをして血液の循環を助けることもできます。

私たちの意識もまた、循環が悪くなることがあります。苦しみや痛み、悲しみ、絶望の塊が自分の内にあることがあります。私たちはそれを内側の形成物または内的なこぶと呼んでいます。私たちの痛みや悲しみをマインドフルネスのエネルギーで抱きしめるというのは私たちの意識のマッサージのプラクティスです。血液がうまく循環しない時には内臓がうまく働かなくて病気になります。私たちの精神(psyche)がうまく循環しない時、私たちの心は病気になります。マインドフルネスは痛みの塊に刺激を与え、循環を促進するものです。

痛みや悲しみ、怒り、絶望などの痛みの塊は意識に上がって私たちのリビングルームに入りたがります。なぜならそれらは大きくなり、私たちの注意を必要としているからです。それらは表に現れたがっていますが、私たちはそれらの招かれざる客がやってくるのをいやがります。なぜかというとそれを見つめるのは痛いからです。だからそれらがやってくる道をブロックしようとします。地下で眠ったままでいてほしいと望みます。それらと直面したくなくてリビングルームを他のお客さんで満たそうとします。10分か15分自由な時間があると自分のリビング満たすために友達に電話をしたり、本を読んだり、テレビを見たり、車の運転に行きます。もしそのリビングルームがいっぱいだったら不快な心の形成物が現れないだろうと願うからです。

でも、すべての心の形成物は循環する必要があります。もしそれらが現れてこないようにしていたら、自分の心の中の循環が悪くなり、心の病気やうつ状態が自分の心や体に現れます。

時には頭痛が起こり、アスピリンを飲んでもその痛みは消えません。その痛みは心の病気の現れなのです。ある人はアレルギーがあるかもしれません。それを単に身体的な問題と思ってしまいますが、心の病気がアレルギーとして現れることもあります。医者からは薬を取るように言われますが、それはたんに自分の心の形成物をさらに抑圧し、病状を悪化させることもあるのです。

4.バリアを取り外す
もし私たちが痛みのこぶを恐れなくなったら、徐々に私たちのリビングルームにあがってもらい、循環させていけるようになります。それらをどのように抱きしめ、マインドフルネスのエネルギーと共に変容させていくかをだんだん学んでいきます。地下室とリビングルームの間のバリアを取り除いたとき、痛みの塊が湧き上がってきて、多少の痛みはあります。私たちの内側の子ども(インナーチャイルド)は地下室に長く閉じ込められたことの恐れや怒りを抱えているからです。それは避さけることができないことです。

だからマインドフルネスのプラクティスがとても重要なのです。もしマインドフルネスがそこになければそれらの種が湧き上がってくることはとても不快な気持ちになります。でももしマインドフルネスのエネルギーを引き起こす方法を知っていたら、それらの種を招いて抱きしめることは癒しになります。マインドフルネスはネガティブなエネルギーを見つめて、抱きしめ、ケアをするためのエネルギーの強い源となります。もしかしたらそれらの種は最初表に出たがらないかもしれない。あまりにも多くの恐れと不信感を抱えているため。だから説得がひつようなこともあります。しばらく抱きしめた後もその気持ちは再び地下に潜り種となります、でも、痛みは前よりも弱まります。

マインドフルネスのお風呂につかると、あなたの内側にある痛みの塊は軽くなっていきます。だからあなたの怒り、絶望、恐れを毎日マインドフルネスのお風呂にひたしてください。数日もしくは数週間がたち、毎日それらが浮かび上がって地下へ戻っていくことを助けていると、自分の心の中の良い循環が生まれます。

5.マインドフルネスの機能

マインドフルネスの最初の働きは認識し、戦わないということです。どんな時でも立ち止まり、自分の内側の子どもに気づくことができます。傷ついた子どもを最初に見つけた時、まず最初にやることは「やあ」と話しかけることです。それだけです。もしかしたらその子は悲しんでいるかもしれない。もしそれに気づいたら呼吸をして自分自身に語りかけてください。「息を吸って。自分の中に悲しみが出てきていることを知っている。悲しみさん、こんにちは。息を吐いて、あなたのケアをするからね。」

自分の内側の子どもにひとたび気がつくことができたら、2つ目にやることはその子を抱きしめることです。それは喜びに満ちたプラクティスです。マインドフルネスは同盟者を連れてきます。それは集中力です。内側の子どもを認識してやさしく抱きしめる最初の数分で安らぎがもたらされます。難しい感情たちはまだそこにあるけれど、依然と同じようには苦しみません。

私たちの内側の子どもを見つけて抱きしめた後、マインドフルネスの3つ目の働きは私たちの難しい感情をなだめて和らげることです。そうすれば安らぎを感じることができます。マインドフルネスと集中力をもって自分の感情を抱きしめることができれば、それらの心の形成物の根の部分を見つめることができます。どこから自分の苦しみが来ているのかを知ります。ものごとの根の部分を知ることができれば、私たちの苦しみは少なくなります。だから、マインドフルネスは認識し、抱きしめ、和らげることなのです。

マインドフルネスのエネルギーは集中力と智慧を含んでいます。集中力は一つのことに焦点を当てることをたすけてくれます。集中力があれば、見つめる力はより強力となり、洞察が可能になります。洞察はいつも私たちを自由にする力をもっています。マインドフルであって、どのようにマインドフルネスを生き生きしたものとして保つことができるかを知っていれば、集中することもできます。そしてどのように集中力を保つことができるかを知っていれば、洞察力もそこにやってきます。マインドフルネスのエネルギーは私たちが深く見つめ、変容のための洞察をもたらしてくれます。

(翻訳・書き起こし:Kumiko Jin)

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ティク・ナット・ハン「マインドフルネスの教え」
HP: https://www.tnhjapan.org/
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