2021年4月4日 アン・フーンさんの法話
4月4日(日)に行われた全国のサンガ向けのアン・フーンさんの法話です。
マインドフルネスのプラクティスとは、立ち止まるプラクティスです。走りづつける思考を止めるプラクティスなのです。
もし、止まることができなかったら、たとえあなたが崖まで行っても立ち止まることができずにそのまま落ちてしまうことになります。孤独や絶望を感じている時に、その止め方を知らないでいるということは、命を危険にさらすということです。自分の孤独や絶望を止めることができずに命を絶つ人たちがいます。そのような人は自分が命を絶てば苦しみが終わると考えますが、実際には周りの人々に大きな苦しみを生み出します。
考えや感情が強くて、非常に大きく止められないということは津波のようなものです。津波はすべてを破壊していきます。
マインドフルネスのプラクティスとは、入る息を入る息として、出ていく息を出ていく息として保つということで、それは泳げない時に海で浮き輪につかまっているようなものです。呼吸に戻ることができた時に、心は徐々に落ち着いてきます。もし、そのようにすることを知らなければ津波が来ても避けるのは難しくなります。
サンガ(実践者のコミュニティ)でプラクティスをする時には、マインドフルに取り組むことが一人でやるよりも容易になります。それは自宅にいてズームを通してのつながりだとしてもそうです。一緒に呼吸に気づくことで、集合的なマインドフルネスのエネルギーは強くなります。自分の中に平和と静けさが育まれます。
プラクティスの中でも、シェアリングのプラクティスは非常に重要です。シェアリングは、集まって一番最初にやることはありません。呼吸や歩く瞑想や食べる瞑想をやった後にやります。それは身体がリラックスした状態で、心が穏やかで開かれた状態になった時にやるものだからです。自分の身体と心がリラックスして開かれた時に、サンガのスペースも開かれて、シェアリングが初めて可能になるのです。
シェアリングを行う時には、心で話し、心で聴きます。自分の存在全体でシェアをします。ですが、身体が固くなっている時や自分の心がどこかへ行ってしまっている時、心が閉じている時にはハートから話し、深く聴くことはできません。ですから、坐る瞑想や歩く瞑想、マインドフルムーブメントを行ってからその後でシェアリングを行うのです。それはプラクティスが私たちをリラックスさせてくれて、心と身体が一つになった時に初めてシェアリングが可能になるからです。
サンガでのシェアリングというのは他の場での会話とはかなり性質が違います。それはマインドフルネスと集中と洞察によって支えられているマインドフルネスの実践です。
サンガの一人一人はサンガという一つの身体の細胞です。誰かが心から話す時に、それは自分とは違った他の身体から出ていることばではなく、同じ身体の細胞の一つが話しているものとして聴きます。話を聴く時には、外側にいるものとして聞くのではなく、自分の存在全体の内側にあるものとして響かせます。
スプーンひとさじの塩をコップに入れたら、コップは塩辛くなり水は飲めなくなります。でも、それが湖だったらそれほど影響されずその水を飲むことは可能です。苦しい時、呼吸ができない時、マインドフルな呼吸をしよう、痛みを抱きしめようと自分でしても疲れ果ててできないことがあります。
痛みを見ないようにして、ただ1時間坐る瞑想をして、呼吸に気づきを向けて「うまくいった」とあなたは思うかもしれません。でも、それでは痛みから逃げているだけです。
痛みというのは私に何かを訴えかけているのです。何度も何度も。それを無視して抑え込んで呼吸に逃げようとして、たとえ表面的に呼吸に集中して安心しようとしても痛みはなくなることはありません。痛みが大きくて手に負えないので無視して忘れようと坐る瞑想をしていても、いつか坐る瞑想がこれ以上できないという時が来ます。
サンガでシェアリングをする時には、サンガの全員が入る息、出ていく息を辿っています。それは自分の存在そのものを差し出すということです。サンガの細胞の一つ一つとなり、痛みをサンガのゆりかごの差し出した時、その痛みはサンガのゆりかごの中で育まれます。
コップ1杯の水にはスプーンひとさじが多すぎたものが湖だったら大丈夫だったように、自分一人では抱えきれない痛みや苦しみも、サンガというスペースに出せれば呼吸ができるようになります。あなたの痛みそれ自体が語りだすことができるようになります。リラックスして、揺るぎなさや静けさ、安心感を感じることができれば、呼吸を楽しむことが可能になります。
一緒に集まってシェアをしても、気づきの日の最初に行うシェアリングは最後に行うものほど深くなりません。それはシェアリングが心と身体で体験したことのすべてが現れてくるものだからです。シェアリングの際には話し始める時に手を合わせます。それは心と身体を合わせるということであり、また助けをお願いするということでもあります。そして最後のお辞儀はハートで話し、ハートで聴いてもらったことへの感謝を示すということです。お互いの話す時間に気を配り、全員が話せるように気をつけながらも自分の中にあるものをサンガのゆりかごに乗せて揺らします。
コロナの影響で日本での自殺率が上がっているというニュースを見ました。特に若い人の自殺率が上がっているというのは悲しいことです。今というこの時代に、日本の人たちにとって、心から話せるということは薬になります。しかし、日本の文化では感情や痛み、心にあることをシェアするということはこれまであまり行われてきませんでした。
若者が絶望という一つの感情・思考に囚われてしまうというのは、それだけが自殺の原因になるわけではありません。絶望が恥や罪悪感の感情を刺激し、若者をノックダウンさせて死に至らせてしまいます。でも、恥や罪悪感、絶望はどこから来ているのでしょうか?
その人の中に起こる強い感情は、その人の中から湧いているということも言えます。でも、深く見つめると何世代にもわたってその感情が引き継がれてきたものであることが分かりません。それは、ここにいる個人だけの問題ではないのです。
日本の文化は心にある真実をそのまま話すことを許してきませんでした。多くの感情が語られずに次の世代に受け継がれて続いてきました。日本人の持っている恥の感覚はこの世代で始まったわけではありません。1つの世代から次の世代へと引き継がれて来たものです。
今、パンデミックが起こったことで、これまで奥にあった問題が表面に現れて津波のように人々を襲っています。精神的な津波が内面に襲いかかり、若者はどうしたら良いのか分からなくなっています。
誰かが自殺をするということは、生きている人に対して大きな気づきの鐘が招かれているということです。亡くなった人たちの気持ちは、私達一人一人の中に亡くなった後にも残ります。亡くなった人たちは自分の気持ちの抱きしめ方を知らず、どうしたら良いのか分かりませんでした。彼らには自分の気持ちを受け止めてくれるサンガがありませんでした。でも、私達にはサンガがあり、プラクティスがあります。
サンガにおいては、誰かがシェアしてくれた痛みを変容させることは誰の責任でもありません。恥や罪の意識や、痛みや怖れはサンガ全体のゆりかごにより抱きしめることが可能です。意識的な呼吸や、歩く瞑想、食べる瞑想により、集合的なマインドフルネスのエネルギーで抱きしめられます。その痛みを操作したり、修理しようとしたりする必要はありません。マインドフルな呼吸とプラクティスにより自分の存在を差し出せばそれで良いのです。
サンガでシェアし、サンガで聴く時にはプレッシャーはあまりありません。ただ、リラックスして、信頼し、平和と安全を感じられることがそこにいる全員にとって癒しの場になります。
若者やあるいは若くない人でも自殺をしてしまうのは大きすぎるプレッシャーや抑圧が爆発してしまうからです。それは自分の内側の爆弾が爆発するということです。爆弾は私達一人一人の中にあります。
マインドフルネスのプラクティスを行うことができれば、慈悲や愛や喜びが生まれます。それはそこにいる人のためだけでなく、世界に平和や喜びのエネルギーを伝えるということです。兄弟愛・姉妹愛を社会に広げるということです。
命を絶った若者たちは人生に行き詰まりを感じ、人生を終わらせることで問題を解決しようとしました。でも、それで問題は終りません。私達の中にも爆弾があります。プラクティスを通してその爆弾を解除することができます。それは、自分のためでもありますが、亡くなっていった人たちのため、自分の祖先のため、そして社会や国、その土地のためになります。
それは私達の夢でもあります。日常生活の中で気づきを持って実践し、サンガで一緒になる度に思い出してください。サンガは古くから受け継がれ来た爆弾を愛と信頼により解除する場なのです。もし、サンガで解除することができなかったら、他にどこで爆弾を解除できるというでしょう?
新しい赤ちゃんが日々生まれています。サンガのプラクティスがあるおかげで、赤ちゃんはサンガの温かいエネルギーを受け取ることができます。エネルギーは空気のように遠く、深くにまで届けることが可能です。
あなたが泣くことができるのなら、泣けない人のために泣いてください。涙は私達の命、他の人の命を助けてくれます。涙は弱さのサインではありません。もし、涙を流すことができていたら、若者たちも死なずにすんだかもしれません。
涙を流させてあげる、涙が流れることを許すということは、自分自身が開かれるということであり、心と身体が柔らかくなるということです。それは癒しのサインです。涙が笑顔を本物にしてくれます。涙と笑顔は分けることができません。
私達はみんな日本の祖先たちの子どもです。そして多かれ少なかれ文化に縛られています。それは心からのシェアリングを勧めない文化です。ですから、シェアリングをする時には、気持ちを分かち合うことができなかった自分の両親、祖父母、その祖先たちの気持ちを感じながらシェアをしましょう。彼らの気持ちも大事にしましょう。サンガでプラクティスをする時には、自分一人でこの場に来るのではなく、両親、祖父母、祖先たちも一緒にサンガに参加してください。
(書き起こし Kumiko Jin)
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