わが国の林業・木竹材素材産業再生の手立てを考えよう”

―フミン質について―

 “わが国の林業・木竹材素材産業の手立てを考えよう”というテーマに対してフミン質なんて何のことと思われるでしょう。そもそもほとんどの人がフミン質を知らないと思われますが、実は私もその一人でした。
 18年前に大学を退官してここ三雲の地に木材素材の研究を続けるべく研究所を作ったのですが、たまたま人工の池があり、空のままで捨ててあったのに、当時少なくなっていたメダカや水生昆虫を育ててやろうと渓流の水を引き入れたわけです。透明な水でしたが、3年も経つと池の底に黒いヘドロが溜まり始めたのに気が付きました。これはいったい何なのだろうとすくいあげて瓶に入れたところ、しばらくすると底に沈殿し始め、上は透明な水とヘドロの二層に簡単に分離しました。このヘドロは不思議なことに全く匂いがしないのです。
 いろいろ調べた結果、実はこれがフミン質という植物が分解されてできた複雑な構造を持った高分子の腐植物質であることが分かりました。更に調べていくと植物の枯葉などが土壌微生物によって分解された最終産物で、これが渓流にすむ植物プランクトンや水生植物の餌になるようですが、広葉樹や草本由来のフミン質は彼等の餌になるが、スギの葉が分解されてできたフミン質は植物プランクトンの餌にならないことが分かったのです。池の底に溜まったヘドロは正にスギ由来のフミン質だったのです。谷川の上流から中流にかけて周りをスギの人工林で埋め尽くされているところでは渓流魚がほとんど姿を消してしまうことが知られていましたが、スギ由来のフミン質によって渓流での食物連鎖の環が断ち切られてしまうことが原因のようです。

 写真は最近10年ぶりで池さらいをした時のヘドロの様子です。

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 このような小さな池で恐ろしいくらい沈殿しているのですから、下流の野洲川から琵琶湖に流れ込んで湖底に沈殿している量は途方もない量になるでしょう。このヘドロの池にシジミを買ってきて入れたところ、たちどころに皆蓋を開けて死んでしまいました。琵琶湖のセタシジミの激減、植物のハスの枯死、アユの稚魚の減少は全てこれが原因と考えてよいでしょう。このまま放置して行けば、下流の大阪府などの貴重な水源が大打撃を受けるばかりでなく、大阪湾の生態系が壊滅することも考えられます。

 フミン質の研究も調べてみるとそのほとんどが研究のための研究の域を出ないものばかりで、これを如何に分解して生態系での食物連鎖に取り込めるようにするかという問題解決のための研究は皆無です。これでお分かりいただけたと思いますが、林業、木材素材産業の再生がこの環境破壊を止める重要な手立ての一つになるということを。この問題提起を滋賀県の知事に3年も前に提案したのですが何の返事もありませんでした。新型コロナウイルスへの対応と全く変わりませんから具体化するのは至難の業でしょう。関連業界だけではなく命に係わる水の問題として多くの人々が自分の問題として声を上げて頂くことで林業、木竹材産業の再生が私達の生活環境を守る大切な手立てであることの社会認知が進むでしょう。今の大阪府の吉村知事は歴代に比べて聡明なようですから彼にもぜひこの問題を伝える手伝いをお願いします。2020/5/16

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野村隆哉
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