短篇小説「自動音声ダイヤル」

　はい、お電話ありがとうございます。こちらはヒューマン・インスティンクト・テンプル・カンパニー、サポートセンターでございます。

　この電話は、自動音声ダイヤルとなっております。通話には、20秒ごとに10円の料金がかかります。場合によっては、10秒ごとに1万石の通話料がかかることもございます。すべては、お客様の対応次第となっております。なおこの通話は、サービスの品質向上、及び従業員らの娯楽のため、すべて録音させていただいております。

　以下の番号の中から、お客様のお問い合わせ内容にあてはまるものを、「ぬぷっ」という音のあとにご入力いただき、そのあとに「井」を押してください。「＃」ではなく、「井」をご入力ください。

　新商品の契約、及びサービスの延長に関するお問い合わせは「1」を。
　商品の故障、修理に関するご相談は「2」を。
　購入した商品がいったいなんだかわからないというかたは「3」を。
　上司に対する不満、及びご自分の仕事が上手くいっていないことに対する八つ当たりは「4」を。
　配偶者及び姑への愚痴をただ聴いてもらいたいかたは「5」を。
　人生相談のふりをして、ただ背中を押してもらいたいだけのかたは「6」を。
　単なる間違い電話のかたは「7」を。
　電話をかけた憶えのないかたは「8」を。
　弊社社員へのパパ活のご相談は「9」を。
　人を殺めてしまったかたは、一度電話をお切りになったうえで「110」を。
　あてはまる番号を入力してから、「井」を押してください。

「ぬぷっ」
「ピッ……ピッ」

　入力されたお問い合わせ内容に関しましては、オペレーターが対応いたします。
　以下の番号の中から、ご希望のオペレーターのタイプを、「んぐっ」という音のあとにご入力いただき、そのあとに「ヰ」を押してください。「＃」でも「井」でもなく、「ウヰスキー」の「ヰ」をご入力ください。

　温厚なだけでつまらないオペレーターをご希望のかたは「1」を。
　受け答えが明快で、うっかりミスのあるオペレーターをご希望のかたは「2」を。
　隙あらば駄洒落をぶち込んでくるオペレーターをご希望のかたは「3」を。
　関西在住経験皆無のくせに、エセ関西弁を駆使するオペレーターをご希望のかたは「4」を。
　鳴かないホトトギスを見ると、つい殺してしまうタイプのオペレーターをご希望のかたは「5」を。
　根気があり、根に持つタイプのオペレーターをご希望のかたは「6」を。
　ラップバトル日本一の称号を持つのオペレーターをご希望のかたは「7」を。
　プロのオペレーターには絶大な人気を誇るものの、一般のお客様にはいまひとつ人気のない「オペレーターズオペレーター」をご希望のかたは「8」を。
　基本無言のオペレーターをご希望のかたは「9」を。
　ハトヤへのご宿泊をご希望のかたは、一度電話をお切りになったうえで「4126」を。
　あてはまる番号を入力してから、「ヰ」を押してください。
　
「んぐっ」
「ピッ……？？？………？？……ピッ」

モンスターカスタマー「敵は本能寺にあり！」
オペレーターNo.5「是非に及ばず……！」