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「初めて知った」をいつやるべきか

カキフライを初めて食べたのは社会人1年目のときだった。
当時、ハンバーグとしょうが焼きとミートソーススパゲッティが世界の三大料理だった私にとって、世界が塗り変わるような衝撃を覚えた。
カキフライを食べたハンバーグおいしいボーイは「世の中にはまだこんな美味しいものがあったのか」と、今にもピースボートで世界一周に飛び出さん勢いであった。

カキフライがこんなにおいしいということを、社会人1年目で「初めて知った」のはとても良いタイミングであった。
「世の中の美味しいものはだいたい土間土間で食べられる」と思っている大学出たての若造が現実を知るには実に良い時期で、もう少し遅ければ「なぜこんな美味しいものを今まで知らなかったのだ」とカキフライ知らずの期間の長さに絶望していてもおかしくない頃合いであった。

この「初めて知った」のタイミングが実に難しい。

ディズニー映画がとても好きなのだが、恥ずかしながら『ライオン・キング』を見たのはごく最近だった。
これは知るのが正直遅すぎた。
「ハクナ・マタタ」をネットミームかなんかだと思ってあの歌のシーンを知らずに過ごしてきた時間は重大な損失である。

ディズニーでいうと、最近ミニーちゃんのかわいさを初めて知った。
様々なアイドルを履修した上で見た「ミニーのファンダーランド」は、非常に洗練された「かわいさ」が凝縮されていることがわかる素晴らしいパフォーマンスであった。
これは今更知ったからこそよかったことである。

アイドルでいうと、アイドルネッサンスというグループを知ったのが解散後だったのは完全に遅きに失したと感じた。
『前髪』という曲が歌詞、メロディ、PV全て完璧で、これからこのグループはどうなるんだと期待して調べたら解散していたときの虚しさといったら。
「推しは推せるときに推せ」とはよく言ったものだが、解散した後ではどうしようもない。

「推しは推せるときに推せ」を強く実感したのは、「いないいないばあっ!」のうーたんが卒業すると知ったときである。
子供が生まれてから子供向け教育番組を見るようになったので、「キャラクターが卒業する」とは想像もしなかった。
知っていたら現地イベントにも参加していたかもしれないと思うと後悔は尽きない。

知っていたからよかったのはサツマカワRPGのヅラである。
ヅラを外したときのくだりも含めて知っていたので、R-1グランプリ2024の決勝ネタで引かずにゲラゲラ笑えた。
審査員の誰かが言っていたが、確かにいきなりあれを見せられたら面白いよりびっくりが勝つ気がする。
一方トンツカタンお抹茶のかりんとう車は全く知らなかったので一番笑った。

「無知の知」という言葉があるが、無知はそれほど悪い状態ではない。
知っているとよいことはたくさんあるが、「初めて知った」の余地を残している点で無知もまたよい。
どうせこの世の全てを知ることはできないのだから、知らないことで生まれる可能性を楽しむ姿勢をもちたい。

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