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苦中の苦を受けざれば、人の上の人たること難し
『通俗編』
●清代に編集された『通俗編』という本のなかに出てくる言葉である。意味は、説明するまでもないであろう。逆境の中におかれた体験を持たない者は、リーダーとしての資格にかけているというのだ。
●かつて「電力の鬼」といわれて政財界に重きをなした松永安左エ門は、ボンボン社長が面会に来ると、よく、
「人間はな、三つのことを経験しないと一人前にはなれん。一つは闘病、二つめは浪人、三つめは投獄だ」
といって、相手をケムに巻いていたという。
●彼自身、この三つのことを三つとも経験していたというから、それなりに説得力はあるわけだ。『通俗編』のこの言葉も、松永の語ったことと、まったく同じ意味に他ならない。
●組織のリーダーとは、もともと責任が重く、つらい立場である。地位の重さに耐えるためには、部下よりも何倍も自分を鍛えてかからなければならない。それが、いわゆる修身とか修養と呼ばれるものだ。
●ところが、戦後の日本の社会では、修身とか修養というと、頭から毛嫌いされる傾向がないでもない。しかし、それは、もともと自分を鍛えようとする自覚的な努力を抜きにしては考えられないものである。
●そして、とくに、それを要求されるのがリーダーだといってよい。
●一般にいって、人間はだれでも安易につこうとする性癖をもっている。だが、それを許されないのが逆境にある時だ。逆境にあるときこそ、自分を鍛える絶好の機会となる。
●中国の人生の書とでもいうべき『菜根譚』も、こう語っている。「逆境や貧困は、人間をたくましく鍛え上げる溶鉱炉のようなものだ。このなかで鍛えられれば、心身ともに強健となる。鍛えられる機会を持たなければ、ろくな人間には育たない」
●逆境と貧困のなかで鍛えられること、これがまた人生の逆転力にも結びついていくのである。