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もっと小さく安くできるはずだ
ソニー創業者 井深 大
●井深は、部下が研究開発した製品が、目標を下回っているとき、この言葉とともに何度でもやり直しを命じた。新製品に対する井深の目標はきびしかった。そのサイズ、コストとも、ソニーでなければ果たせないものにしたい、という強い願望があったのである。
●(社長がああいうからには、この製品はもっと小さく、安くできるはずだ)
部下は、二度、三度、突き返されても、愚痴をこぼさず新製品の改良に懸命に取り組んだ。
●その結果、これなら、と自信の持てるものができあがる。
(今度こそ、社長の喜ぶ顔が見られる)
●部下が意気ごんで改良を加えた新製品を持ち込むと、井深はきびしい技術者と経営者の眼力でチェックし、まだ目標を下回っていると思えば、また、タイトルの言葉とともに突き返す。反対に、目標どおりに仕上がっていれば、「ありがとう」の言葉を繰り返しながら、技術者の手を力強く握りしめ、労をねぎらう。
●こうして世に送り出された新製品は、つねに創意の感じられるスマートなものばかりとなり、日本国内ばかりか、海外でも評判になった。ソニーの新製品の陰には、井深と技術者たちのイノベーションをめぐる妥協のない戦いがあったのである。
●井深は、盛田昭夫と昭和二十一年五月、東京通信工業(ソニーの前身)をスタートさせるとき、「どこでもやらないもの、どこでもやれないものを作る」ことを企業目的に掲げた。
●その後、井深たちが世に送った新製品をみてみれば、掲げた企業目的を着々と果たしていることがうなずける。
●ソニーは人まねをしない----新製品の一つ一つがそう叫んでいるようである。
●井深は、「企業の技術力を決定づけるのはトップの方向づけにある」とする。確かに、一人一人の技術者の力量、創意がどんなに優秀でも、トップの方向づけが的確でなければ、組織的なものにはならない。
●その方向づけに重要な役割を果たしているのが、引用の言葉なのである。