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マクドナルドをバカにしていたけれど、入社したらとんでもなく最強のビジネスだった

マックは「しょうもないもの」の象徴

いま僕は「うんこミュージアム」を運営する会社の社長をやっていますが、新卒で入ったのは「マクドナルド」でした。

学生の頃、僕はこう思っていました。

「マックなんて、ただのマックでしょ?」

言ってしまえば、大衆的で「しょうもないもの」の象徴。どこのマックに行っても同じような店だし、どの店でも一緒のものが出てくるし……。

そもそも僕はマクドナルドが好きではありませんでした。なんなら、ハンバーガーも好きじゃない。でも、なぜマクドナルドを選んだかというと「辞めやすい」と思ったからです。

もともと起業を目指していました。自分でビジネスがやりたかった。大学生のときは友だちとYouTubeの動画を作るような会社をやってみたりもしました。ただ、そのまま起業するイメージは湧きませんでした。

まずは自分の武器が欲しい。

そこで「マクドナルドに入れば、早いうちにスキルをつけられるんじゃないか? 武器を手に入れたらさっさと辞めよう」。そういう打算的な気持ちで入ったのです。

そんなナメた感じで入ったマクドナルドでしたが、知れば知るほど「これはとんでもなく最強のビジネスだ!!」と思うようになっていくのです。

どんなことに驚いたのか?

順を追ってお伝えしていきたいと思います。

メディア担当として全国を奔走

マクドナルドにいた5年のうち、最初の4年間はメディア担当でした。簡単に言えば、広告の出し先を決めるようなチームです。

そこではテレビを含めたあらゆるメディアの人の動きがわかりました。当時マクドナルドは年間100本くらいのCMを作っていましたが、メディア担当として働く中で俯瞰して「マクドナルドのビジネスの全体感」を見ることができました。

全国のお店を見る機会も頻繁にありました。

メディアジャックで日本全国の駅や街に広告を貼りまくる仕事もありました。これは楽しかったですね。北海道に行ったり、鹿児島に行ったり……大きいキャンペーンになると、全国のラジオ局でイベントをやって、取材してもらったりもしました。

1億人を相手にビジネスをするスゴさ

そうやって日本中のマクドナルドを見て回りながら思ったのが「ビジネスの本質は店舗にあるんだ」ということでした。

マクドナルドにはそれこそいろんなお客さんが来ます。

学生さんもいれば、サラリーマンも来る。親子連れ、家族連れ、年配の方も来る。そういう方たち全員を、全国各地で楽しませて、日々満足してもらっているわけです。

一方で各店舗には、いい仕事をしようと頑張っている人がたくさんいます。それこそアルバイトの学生さんが笑顔で仕事を楽しんでいたり、自ら勉強しようとしていたりする。

そんな光景を全国各地で目の当たりにして、「これって実は、スゴいことなんじゃないか!」と思ったのです。

小さなお店で数人を相手にするのならわかります。

でも、マクドナルドは1億人を相手にしているわけです。「1億人を相手に商売する」いうのは、当たり前かもしれませんが、それを実際に約3000もの店舗で提供している人がいるから成り立つのです。

本社でハンバーガーが売れるわけじゃない。

たしかに本社もスゴいでしょう。商品開発をしたり、広告やキャンペーンをしたりしている。もちろんそれもスゴいのですが、それが店舗まで落ちて、お客さんに喜んでもらって、ビジネスが完結している。

マクドナルドというものの価値が現場まで浸透しているところに僕はスゴさを感じたのです。

入社当初、「どこのマックに行っても同じだな」とバカにしていましたが、それこそが価値でありスゴさだったことに気づいたのです。

あらゆる施策が「ブランド」に繋がっている

4年間メディア担当として全国各地を回ったあと、5年目は本社でブランド担当として働くことになりました。

マクドナルドといえば「ブランドの強さ」は有名です。

そこはわかっていたつもりでした。でも、その徹底ぶりが違ったのです。

僕が考えていたブランドはブランドじゃなかった。

ブランドを磨くことで、お客さんは「マクドナルドって楽しそうだな」と思うようになります。従業員も「ここで働くのは楽しいな」と思うようになる。さらに言えば、フランチャイズのオーナーも「マクドナルドを経営してよかった」と思うようになる。

ブランドを磨くことで、お客さん、働く人、経営する人、あらゆる方面にプラスの影響が及んでいく。

マクドナルドはこの「ブランド」というものを磨くために、あらゆる施策をとっていたのです。

キャンペーンは「リマインダー」にすぎない

マクドナルドのブランドとは何でしょうか?

まず「キャンペーン」を思い出す人も多いでしょう。

「Big America」のキャンペーンとか、月見バーガーやグラコロなどのキャンペーンです。これらは目立つので「ああいうキャンペーンこそがマクドナルドのブランドなのかな?」と思いがちです。

でも、これらは「リマインダー」に過ぎません。

「いつでも来てくださいね」と言っても、行くきっかけがない。そこでこうしたキャンペーンをやることで思い出してもらう。話題にしてもらうことが大切なのです。

目指したいのは自然と「今日はマックに行こう」「ちょっとマック寄ってお茶していこう」と思ってもらえる世界なのですが、そこにつなげるためにもキャンペーンというリマインドを設定しているわけです。

定番商品こそが「コア」

マクドナルドの真ん中にあって、売上を支えているのは「ビッグマック」や「ハッピーセット」などの定番商品です。これらのレギュラーメニューが商品として強い。

これがマクドナルドブランドのコアです。

キャンペーン自体は、揮発性が高いものです。キャッチーなものにしたり、CMを面白くしたりして、話題性を高めるよう設計するわけですが、それは「奇抜なことをやって目立つため」ではなく、最終的に「真ん中にあるレギュラーメニューにつなげるため」です。

マクドナルドは一見すると表層的なキャンペーンを繰り返しているように見えるかもしれませんが、狙いはそれ自体にあるわけではない。あくまでコアのブランドが中心にあって、そこにつなげていくためのもの。

コアのブランドをブラさないことが重要なんです。

マックは「ハンバーガー屋さん」ではない

マクドナルドのブランドは定番商品にある、という言い方をしましたが、それでも正確ではありません。

マクドナルドのブランドとは何か?

それは「お客さんがなぜマクドナルドに来るのか?」を探ることで見えてきます。

お客さんはもちろんハンバーガーを食べに来ているわけですが、多くの人は「ハンバーガーが食べたいな」と思ってマクドナルドを選んでいるわけではありません。

それよりも「気軽に行って、楽しい気分になる場所だよね」「家族で安心して楽しめる場所だよね」という思いで選んでいますし、マクドナルドとしても、そういう場所として捉えてもらうことを重視しています。

“FUN PLACE TO GO(楽しいお出かけ先)”

これは僕がマックで働いている中でよく出てきたキーワードです。お客さまにとって「ハンバーガーを食べる場所」ではなく「楽しいお出かけ先」であろうね、というメッセージです。

“i'm lovin' it(それが好き)”

これは覚えている人も多いと思いますが、広告のタグラインで、CMでもよく流れていました。こうしたメッセージを伝えることで「楽しいな!」「ワクワクするな!」という印象をつけていく。「マクドナルドって、安心して楽しめる場所だよね!」という認知を浸透させていました。

マクドナルドのブランドとは何か?

ひとことでは言い表せませんし、いろんな意見があるとは思うのですが、僕はこの「みんなが安心して楽しめる場所を提供すること」こそがマクドナルドのコアにあるブランドなのだと思いました。

地道なことをやり続けるための「魔法」

さらに驚いたのは、ブランドを守るための確固たる「仕組み」があることでした。

マクドナルドが「家族で安心して楽しめる場所」であり続けるためにやるべきことは、けっこう地味です。

商品のクオリティを一定以上にする。店員が気持ちよく対応する。店舗の清潔さを保つ……そういう地道なことをひとつひとつ積み上げなければいけない。これを続けていくのは大変です。

マクドナルドがスゴいのは、そういう「やるべきだけど、つまんない」ことを「楽しんでやる」ための空気ができていることです。僕は「マクドナルドという魔法が効いている」と感じました。

調理も接客も掃除も、日々の業務は一見地味です。でもそれを楽しいものに変える。「マクドナルドという場所をよくするために、みんなで頑張ろう」と思える。マクドナルドにはそんな魔法がかかっているのです。

キャンペーンなどのマーケティングも、商品だけではなく、働く人を含めていろんな人に「魔法」をかけていくために功を奏していました。それも、お客さん、クルーなど一方向だけじゃなく、みんなに魔法をかけていく。

マクドナルドを外から見ると、結構派手に見えます。面白いCM、季節ごとの商品、楽しそうなキャンペーン。ただこれは日々の地道な業務を楽しくやるため、でもあるのです。地道なことをやるためにも派手な打ち方をしていると言ってもいいでしょう。

何度も言うようですが、「キャンペーンがうまくいったからブランドが強くなった」とか「あの商品が売れたから、売上が伸びました」という単純なことではないのです。

あらゆる関係者を魅了しながら、地道に業務をやりながら、強い場にしていく。べーシックな部分を蔑ろにしない。真ん中にあるブランドをちゃんと磨いていくために、伝わりやすいキャンペーンやメッセージを打ち続ける。

そういう構造になっているわけです。

「マクドナルドにしかできないこと」しかやらない

商品の会議でも「なるほどな」と思ったことがあります。

それは「マクドナルドにしかできないことしかやらない」ということを徹底しているのです。

マクドナルドを理解していないと、たとえば「野菜バーガーみたいな健康的なのってどうですか?」「豆腐バーガーとか売ったらヘルシーで良くないですか?」みたいに提案しがちです。

でも、そんな提案は通りません。「いや、わかってない」「そんなの売れないぞ」と言われるのがオチです。

なぜか?

それは誰もマクドナルドにそれを求めていないからです。野菜バーガーとか豆腐バーガーといったものは誰でも思いつくのですが、絶対に売れない。「マクドナルドじゃないから」です。

マクドナルドは、自分たちしかできないことしかやりません。それがブランドを作っていくとわかっているからです。マクドナルドにしかできないのは「1億人みんなが楽しめる場所」を作ること。だから定番を大切にするし、間口を狭めるようなことはしません。

マクドナルドらしくドーンと構える。王道で行く。それがマクドナルド的なアプローチであって、ニッチな逃げ方をしないということが大切なのです。

「自分たちしかできないこと」というと難しく聞こえるかもしれませんが、野菜バーガーを「モスバーガーでもできるかな?」「ケンタッキーでもできるかな?」と考えてみると「できるな」となります。でも、たとえば「Big America」というコンセプトは絶対にモスバーガーではできない。ケンタッキーでもできない。

「他社でもできるか?」という視点で見ていくと、自分たちしかできないものが見えてくるはずです。

マクドナルドビジネスを支える「3本の脚」

ここまでマクドナルドの強さを見てきました。

極め付きは「フランチャイズモデル」です。

フランチャイズや不動産といったものと、マクドナルドブランドがガッチリと結びついている。これが、最強なのです。

日本のマクドナルドは、僕が入社したとき「直営7割、フランチャイズ3割」くらいだったと思いますが、今はフランチャイズの割合は7割ほどまで増えています。

アメリカを見ると、99%以上がフランチャイズです。というより、そもそも初めからアメリカのマクドナルドは「フランチャイズビジネス」です。

直営店はタイムズスクエアなどのフラッグシップストアだけ。直営店は言わば「ショーケース」です。つねにあらゆる機材が揃っていて「新しい機材を導入したので、オーナーのみなさん見に来てください」「これを導入するとこれだけ効率上がりますよ」ということを示すためのお店で、それ以外のお店はすべてフランチャイズです。

マクドナルドで働いていると「Three-Legged-Stool(3本脚の椅子)」というワードをしょっちゅう耳にします。

これは「サプライヤー」「フランチャイジー」「マクドナルド」が三位一体となってビジネスを支えてるんだよという意味です。

普通の人から見えるのは、お客さんとスタッフくらいです。でも、実はこの3本で支えているというのがマクドナルドビジネスの重要なところ。「フランチャイズのオーナー」と「商品のサプライヤー」と「マクドナルド本体」。この3つでマクドナルドビジネスは成り立っています。

「あなたも大金持ちになれます」

マクドナルドがフランチャイズビジネスでやっているのは、シンプルに言えばこうです。

いい土地を見つけて、まずマクドナルドがその土地を買う。そしてその土地をフランチャイジーに売って「そこでマクドナルドを経営してくださいね」とやる。

マクドナルドはまず土地を売ることで儲けます。さらに売った土地の上で商売をやってもらい、利益の一部をもらう。きちんと経営しないと経営権は取り上げられます。

このやり方こそが、レイ・クロックというマクドナルドを広めた人物がやったことです。

「あなたもマクドナルドのビジネスをやれば大金持ちになれますよ!」とレイ・クロックは言いました。実際にレイ・クロックは多くの億万長者を世に送り出しました。フランチャイズオーナーになると何億も儲かる。儲かるから「もう1店舗やりたい」となります。

マクドナルド本体は「やりたいのであれば、この機材を入れて、こうやって運営してね」と指示します。そこで利益が出たら上前をどんどんとっていく。マクドナルド本体に新たな投資は必要ないので、リスクもありません。

このやり方はフランチャイジーももちろん儲かりますが、いちばん儲かっているのはマクドナルド本体です。

そういう最強の商売なのです。

アメリカには数少ない直営店があるとお伝えしましたが、それはなぜかというと、フランチャイズオーナーに「マクドナルドをやりたい」と思わせるためなのです。

フランチャイジーも儲かる、サプライヤーも儲かる、そしてマクドナルド本体も儲かる、というこの構造。この3つが強固に結びついている。

そのうえでマクドナルドはブランドを磨き続けます。それはお客さんやクルーに対してもですが、フランチャイジーをも誘惑しているわけです。ブランドが魅力的なものじゃなかったら、フランチャイズも成り立ちません。誰もついてこない。

フランチャイジーに「やりたい」と思ってもらえるためにもマクドナルドというブランドを磨いていくことがすごく重要なわけです。

「toC」をちゃんとやるとめちゃくちゃ面白い

マクドナルドはいわゆる「toC」ビジネスの極みです。

一般的に「toC」のビジネスはバカにされがちです。現に僕もナメていたところがありました。toCのビジネスは身近にあるし、適当にやれそうな領域に見えるからです。

でも、マクドナルドはそういう領域で、最強のシステムを構築して、日々徹底的にやっているわけです。そこがスゴいし、だからこれだけの世界的なブランドになったわけです。

僕は慶應の経済学部出身ですが、同級生の多くは就活で「toC」の仕事を選んでいませんでした。ほとんどの人が商社とか銀行とか証券会社とかコンサルとか、そういう「toB」の仕事を選んでいた。

僕がマクドナルドを選んだときも「え? ハンバーガー売るの?」みたいな反応でした。

でも、いま僕が言いたいのは「toC」は面白いよ! ということです。

きちんとやればちゃんと儲かるし、デイリーで数字も出ます。みんな適当にやりがちな領域なのですが、だからこそ、そこでちゃんとやったら、ちゃんとやり続けたら、必ず勝てます。

いま僕は「うんこミュージアム」の経営をしていますが、マクドナルドで学んだことがものすごく活きています。領域は飲食ではなく、エンタメですが、マクドナルドの「toC」の真髄に触れて、そこで学んだことを本当に愚直にやっています。

「みんなたのしい、みんなあつまる」

これが僕らのミッションです。

マクドナルドは日本に約3000店舗あって、1億人がお客さんです。僕らも1億人を相手にビジネスをしているつもりです。

老若男女みんなに楽しんでもらいたい。みんなに笑顔になってほしい。

まだまだ始まったばかりですが、いつか世界で燦然と輝けるように日々積み上げていきたいと思っています。

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