【完走した感想】東京サイコデミック_それはPS/セガサターン時代の亡霊か。令和の実写ADV
これまでのあらすじ。
実写ゲーが好きだ。実写ゲーとは読んで字のごとく、ゲーム内のビジュアルに実写画像が使用されている作品だ。有名どころだと街 〜運命の交差点〜や学校であった怖い話あたりが上がるだろうか。イラストやポリゴンとはまた違った表現の良さがあり、ホラーゲームなんかは特に実写の方が怖いと思う場面も多い。
そんな実写ゲーだが、最近ではとんと見ない。一応春ゆきてレトロチカやDeath Come Trueみたいな作品が令和になってもリリースされており、出たら驚く程度の供給はある(春ゆきてレトロチカは割と面白いので気になったら触ってみてね)。とはいえやはり実写ゲーというとPS1/セガサターン時代に多くリリースされているイメージがある。(黒ノ十三とかユーラシアエクスプレス殺人事件とかアナザー・マインドとか。変なゲームばっかだな。)
ハードの性能が上がり映像を積極的に組み込めるようになったものの、ポリゴン等が未発達だったため、実写を使うゲームも多かったのだろう。それが次の世代あたりからCGも成熟し、徐々に実写ゲーそのものが消えていくことになる。
と、そんな中、2024年に放たれた実写ADVが東京サイコデミックである。
(以下ネタバレあり)
概要:東京サイコデミック ~公安調査庁特別事象科学情報分析室 特殊捜査事件簿~
ジャンル:シミュレーションRPG
発売日:2024年5月30日
対応ハード:PS4・5/Nintendo Switch/Steam
価格:5,940円(税込)
2D×シネマティック・リアル科学捜査シミュレーションADV
進行はアニメ+検証パートは実写
ストーリーとしてはパンデミック後の東京を舞台に、超能力が絡んだとしか思えない不可解な事件を操作・検証していくADV。発火や神隠しといった異常な状況を各所ツールを使い検証する。果たして事件の真相はなんなのか、そこに本当に超能力が絡んでいるのか。プレイヤーは謎に挑む。
……というケイゾクやSPECの流れを感じる作劇で、この時点でなんとなく懐かしいものを感じざるを得ない。また各章の進行についても、サクラ大戦よろしくオープニングとエンディングが毎回律儀に挟まる。この演出もPS/SS世代のゲームっぽいなぁと感じさせる。
道中挟まる実写映像や資料などはなかなか凝っており、事件発生時の映像や医療カルテ、新聞、作り込まれた資料を参照し事件の謎を追っていく。
捜査シミュレーションという名の通り捜査方法も様々で複数動画から重なる特定人物を探したり、音声解析を重ねて映像が捏造されたものでないかを確かめる……などシチュエーションは多岐にわたる。
この細かいところをやたらと凝っているあたりもPS/SS時代の作風に近いなーとノスタルジーを感じつつ、久々の実写ゲーを嬉しく思いながらクリアした訳だが、実際のところあんまり面白くなかった。
感想:凝ってはいるが面白さに寄与していない面倒くささ
作風自体は懐かしさを含ませつつ、ゲーム的には動画解析や音声解析など令和の世だからこその要素を盛り込もうという意欲は感じるのだが、これが根本的に面白くない。
動画をじっと見つめて特定のものを探し出す。音声を静かに聞いて捏造の痕を確認する。複数の資料をひたすら読み込んで手がかりを探す。リアルと言えば聞こえは良いが、要するに作業である。個々のシチュエーションや、そのための素材は凝っているのだが、ゲームとしてそれを落とし込み切れていないように感じた。
音声や動画を検証する都合上、操作時にBGMがなくなり無音となる時間も多いため、本当に黙々と作業をすることになる。ドラマが進む合間合間にこの検証パートがそれなりに長く挟まるため、リアルな捜査ってのは案外こういう地味な作業の連続なのかもなぁ……と感じさせた。ある意味正しくシミュレーションできているといえそうだが、言ってしまうとプレイ中に仕事をしている気分になるゲームである。その仕事も楽しくない作業の類。
とはいえその作業感は必ずしも悪い訳ではない。世界観に没頭できる要素としてはなかなかの仕上がりではあった。実写映像や資料を読み込む内に、本当にこういう事件があり、自分がそれを捜査していると感じるような、そうした没入感を得ることができた。なのでシナリオが面白ければこれでも良いかという結論になったかもだが……。
盛り上がりの少ないシナリオ。実写映像を作るのに精一杯だった?
ある意味で一番の問題点。ぶっちゃけ単純にドラマ部分が面白くない。
まず個々のトリック自体の魅力のなさが挙げられる。この事件には超常現象が絡んでいるかもしれない……という切り口で検証していくのだが、あまりにもわかりやすすぎる。一見不思議に見える事件も、出てくる資料的にもああこれは単なるトリックで作れそうだなと想像できてしまうし、大概はその通りのオチになる。逆にこれは超能力だろと一発で判別出来るような派手なことも起きり、それは当然に超能力である。
要するにプレイヤーが当初想定した推論を、地道な作業で埋めていくという流れが多いため、展開の意外性に乏しい。
(流行り神シリーズのようなオカルト/科学で分岐するということもない。わざと変な方向に捜査を持って行って分岐を楽しむということもできない)
また事件ごとのドラマも希薄である。主人公が資料を読み込んで事態を把握していくという立場のため、基本的に事件が起こった後で事を知るため被害者はすでに死亡済み、犯人も資料内にいる誰かであり直接登場しないというパターンがほとんど。リアルといえばリアルだが、犯人を突き止めてもカタルシスを得づらい。
そして次に縦軸となるシナリオの弱さ。
本作には個々の事件とは別に主人公やヒロインに因縁のある敵組織が存在し、それを追っていく大きな流れがあるのだが、途中知らないところで彼らは壊滅している。実は生きていた的な展開でもなく、本当に壊滅する。
意外な展開と言えなくもないものの、自分としてはかなり肩透かしに感じた。最終的に国家の陰謀に繋がるスケールの大きいドラマが始まるのだが、それまでの助走がうまく出来ていないせいで盛り上がるというより荒唐無稽で突飛な展開に感じてしまった。
思うにこれはシステムとシナリオが噛み合っていない。
検証を主軸としたゲームシステムや無口主人公というシステムならば、もっと日常的なドラマの方が合うように感じるが、しかし本作のシナリオは連続ドラマ仕立てのもの。それが喧嘩してしまった結果、双方の面で半端な仕上がりになってしまっていると感じた。
ただキャラクター面は存外悪くない。基本的に捜査以外のパートはアニメ系のイラストで表現されるのだが、彼らと一緒に実写映像や資料を読み込み、ディスカッションしながら捜査していくことで、ほかのADVにはない独特の雰囲気を感じることができたのもの事実だ。作業感が+に働き、一緒に仕事する同僚のような連帯感をキャラに得ることができた。これは実写パートの作り込みがしっかりしていることがプラスに働いた面だろう。
実写ゲーらしい実写ゲーではあった。
と、全体的にゲームとしてはあまり楽しめなかった本作だが、一方でこういうゲームが沢山出てほしいという願いもある。昨今の実写ゲーは、映像に選択肢をつけただけというパターンが多く、どこか物足りない造りのものも多かった。
作品の工数の問題や、昨今の映像クオリティ進化に伴い、実写ゲーを作るハードル自体がどんどん上がっているのだとは思う。そういう意味で本作は良くも悪くもPS/SS時代に近い、作り込みの熱量を感じる出来にはなっており、インディーでもいいからこういう作品をもっと見たいとは感じている。ADVにしたいのか、シミュレーションにしたいのかはっきりさせてほしいとは思うが、この路線自体は応援したい。
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