『NARUTO -ナルト-』の初代編集担当の集英社・矢作さんと真剣に『Dr.STONE ドクターストーン』について議論してみた
※本記事は、「マンガ新聞」にて過去に掲載されたレビューを転載したものです。(編集部)
【レビュアー/松山洋】
ある時、空から不思議な光が降り注ぎ全人類&生物が石化してそれから3700年。
かつての文明は全て風化して、原生生物がはびこる大自然の中で。ひとり石化が解けて、裸で目が覚めたとき。
あなただったら、まず何を考えますか?
先日、矢作さんと飲みながら議論を交わしたのはココでした。
普通に自分がそんなとんでもない状況に置かされた時に考えるのは
① 状況把握
まず今がいつでどういう状況なのか?水や食料&寝床などの生きていく為の環境の確認。
② 他の生存者
自分以外に生存している人間がいないか?仲間を探す&見つける。
こうなると思うんですね。
特に②の生存者の確認。これは真っ先に考えるはずなんですよ。
そしてこの生存者の中には自身の家族も含まれています。
親や兄弟はどこにいるのか?無事なのか?もしまだ石化した状態だったら壊れる危険が無いように安全な場所に移動させたうえで、石化を解く方法を次は考える。
こうなると思うんですよ。
なのに、ね。
この作品ではそうならない。
石化が解けた時の第一声が
“好きなあの娘にできなかった告白の続きをしたい!”
って、そんな馬鹿な(笑)っなんでそうなるんだよ!?
申し遅れました。そんな感じで破天荒な展開で物語の幕が開いた作品『Dr.STONE ドクターストーン』の話です。
さて、話を続けますが。
“石化が解けた時に家族の心配よりヒロインの心配をしてしまう主人公とその展開にリアリティはあるか?”
という部分が議論の焦点になったのですが。
そもそもこの作品、家族の心配どころか主人公を含めた全ての登場人物達の家族構成すら明かされていないのです。明かされないままに次々と人物は登場するのですが、誰も家族の話をしません。
“そんな状況で家族の話が出ないなんてリアリティが無いよね。この作品は変だよね”
って、言って断罪するのは簡単かもしれませんが。
我々が話したいのはそこじゃない。
で、考えてみたんですよ。“なぜ誰も家族の話をしないのか?”そしたらね、笑ってしまうほどシンプルな答えが出たんですね。
“決して面白くならないから”です。
そうなんですよ。色々なパターンで家族の心配をしたりリアリティのある展開を考えてみたのですが、全てのパターンである種のリアリティは出るかもしれないけど、それだけ。そこから面白くなる展開をシミュレーションすることは出来なかったのです。まるで“ここで家族の心配しないのは変だよね?だからしておくね。はい。”と言い訳のようなページの使い方にしかならない。
で、導き出された結論は
『Dr.STONE ドクターストーン』という作品は不必要な要素を極限まで省いて、最も重要な“子供(読者)たちの知識欲を埋めるそもそもの科学の面白さ”を表現することに特化して、大自然の中という極限状態化でその科学の力を発明&活用することによる目から鱗の逆転劇である!
ということ。面白くならない要素は極限まで省いて、面白い要素だけで展開する。これって、言うのは簡単ですが本当に難易度が高い構成ですよ。
どんだけすごいんだ、稲垣理一郎。
『Dr.STONE ドクターストーン』はこの鬼才・稲垣理一郎の原作&驚異の画力Boichiという悪魔的な強力コンビで毎週、週刊少年ジャンプで連載中です。こんな感じでマンガについて議論しながらお酒を飲むのが最高に大好きな松山でした。