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何か苦しい……そんな人に気づきをくれる『凪のお暇』

和久井は今まで、ビジネスセミナーや心理学セミナー、自己啓発セミナーから魔女の講座まで、誘われるままいろんな集会に顔を出してきました。そこで気付いたんです。どの場所に行っても、同じようなことを言われることに。

みんな「ここで学ぶと、イヤな人とは自然と縁が切れるようになりますよ」って言うんです。人って、選ぶ手法は違っても、望むことはひとつなんですね。 

誰でも、自分らしく伸び伸びと生きたいんです。いかに普段、人付き合いにストレスがあって、迷いがあって、人生の指針となるものを欲しているかと思いました。
みんな自分に自信を持ちたいんですね。

ネットで話題の『凪のお暇』を読みました。とっても心地のいい物語です。

主人公凪の心の口癖は「空気、読んでこ」。

会社の同僚になにか聞かれれば、どんな答えを求められているのかを先回りして、場の空気を乱さない返答をします。そしていつも笑顔。が、なんだか痛々しい。

それもそのはず。同僚からも、密かに付き合っていた営業部エースの慎二からも、実は影でこき下ろされていたんです。その事実に、とうとう彼女の心の糸は切れてしまいます。

そしてすべてを……会社も、携帯番号も、慎二も……捨てて、新しい生活を始めます。無職になってお金はないし、贅沢もできないけど、彼女は趣味である節約に邁進しつつ、清貧生活を堪能し始めるんです。

すごく今風の漫画だなと思うのは、友達作りやコンプレックスにまみれた悩める女子が主人公なところ。ひと言で言えば暗い。

70年代の少女漫画の主人公なんて「あたしは男に負けないわ!」「見てよ、木だって登っちゃう!」みたいな元気一発少女ばかりなんですよ。『キャンディ・キャンディ』のキャンディとか、少しくらい気にしてもいいんじゃないかってくらい自分がブスなことなんかぜんぜんお構いなし、自己顕示欲のカタマリみたいな人間です。

『生徒諸君!』のナッキーだって、暴力的とも言える正義を振りかざして周囲を圧倒していく少女です。もう少し他人の事情を鑑みてあげましょうよ。彼女たちは「謙虚ってなに?」って勢いで我が道を行きます。あまりに強すぎ、空気読まなすぎ。今の時代だと彼女たちは共感を得られないかもしれませんね。

でもね、思うんですよ。 空気なんか読まなくっていいんです。自分の言いたいことを言わなくちゃ、いつまで経っても心地のいい人付き合いはできないですよ。和久井は昔から「自分を理解できない人とは付き合わなくていい」と思っていたので、空気とか読んだことないです。

もちろん、友達は少ないです。いないに等しい時期もありました。それで悩んだこともあります。今はもうちょっと器用になったので人とぶつからなくなったけど、そのときそのときで、最高に楽しくて尊敬できて、気持ちのいいお友達しか周りにいませんでした。文句をつけようがないお友達しかいないから、悪口なんか言ったことがないです。

それによく思うんです。人に迷惑をかけていなければ、どう生きようが、どんな趣味だろうが、どうでもいいじゃないですか。アラフィフがフリフリブリッコな格好をしようが、めっちゃヲタクだろうが、「自分の考えとは違う」でいいはずです。それなのに、多くの人が「見て見て、あの人、あんなことして!」なんて悪口言ってるなって思うんです。

人を責めれば責めるほど、自分も道を外せなくなって息苦しくなりますよ。自分がそうでした。自分の意志でものごとを決めず、自分の好きなことをしていないと、他人を責めたくなるんです。

でも好きなように生きていたら、他人のことなんてどうでもよくなります。悪口や文句を言うだけ、自分が不幸になっちゃいますしね。

『凪のお暇』は、そうしたしがらみを全部捨てて新しい人生を踏み出した凪の、トライアルの物語です。

自分を変えようと、勇気を出してなりたい自分になっていきます。すると、今まで見えなかったことが見えてくる。

近所で悪口を言われている未婚の初老の女性が、実はめちゃくちゃ人生を楽しんでいたり、自分のコンプレックスである癖毛が、実は誰かの癒しになったり。人の目を気にしていたら、人のことも上っ面しか見えません。それはもったいないじゃないですか。

もしかしたらそこに、めちゃくちゃステキな宝物が隠れているかもしれないのに。そんな気づきを与えてくれる作品です。

WRITTEN by 和久井 香菜子
※「マンガ新聞」に掲載されていたレビューを転載
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