家族も姉妹も、みんな異国の人。突き放すようで心地いい言葉たちに救われる物語『違国日記』
【レビュアー/こやま淳子】
家族を亡くした痛みとどう付き合うか
家族を亡くしたときの過ごし方を、私は知らない。
親戚やごく近い友人を亡くしたときも、その喪失感とどう付き合っていいのか途方に暮れるのに、もしそれが家族だったときは、いったいどんな精神状態になるのだろうか。
この『違国日記』は、そんな「家族の喪失との付き合い方」を描いた物語だ。
交通事故で両親を亡くした中学生・朝は、親戚にたらいまわしにされそうになっていたところを、叔母である槙生に引き取られる。それまではいわゆる良妻賢母の母に育てられてきた15歳の朝と、少女小説家を生業とする35歳の槙生が、価値観の違いをぶつけあいながら交流し、人生を再生させていく。
叔母と姪とはいえ、他人と一緒に暮らすというのは、違国に暮らすくらい難しいもので、でもそこには愛情みたいなものもあり、わずらわしさみたいなものもあり、そんな心の機微が繊細に描かれている。
「このマンガがすごい!2019年版」オンナ篇4位を取った名作で、淡々としているようでいて、突如ドラマチックに抑揚したりもする世界観は、さすがヤマシタトモコ。そしてそのなかでずっと暮らしていたくなるような心地いい世界なのである。
ツンデレなセリフや奥深いテーマに心救われる
両親を亡くしたからといって、生活は続く。毎日学校に通ったり、家事をしたり、友だちとケンカしたりしながら、母を亡くしたことをしばらく受け止められず、どう悲しんでいいのかも分からずにいる朝に、槙生は言う。
あなたの感じ方はあなただけのもので
誰にも責める権利はない
この槙生が朝に話す言葉は、なぜか不思議な文語調なんだけど、いつも独特の哲学があって、癒される。家族を亡くした痛みを、思春期ならではの複雑な感情を、包み込むようなツンデレなセリフのオンパレードなのである。
あなたのお母さんのことが嫌いだったから
あなたを愛せるか分からないけど、
でも私はあなたを決して踏みにじらない
実はそんな槙生も、亡き姉の言葉や思い出に縛られていることが少しずつわかってくる。そう、つまりこれは、亡くなった家族と向き合いながら、自分自身と向き合う物語でもあるのだ。
読み進めるうちに、なぜか同じ体験をしたことのない私も癒され、心救われるような気分になってくる。
人は、誰しも違う国に住んでいるようなもので、家族や親友や恋人といえど、理解されない苦しさにもがきながら生きている。そんな自分自身にも思い当たるような、奥深いテーマが描かれているからかもしれない。