ダサくて古臭くてウザくて今まで観る気にもなれなかった大嫌いなヤマトの印象を打ち砕いてくれた『宇宙戦艦ヤマト2199』
『宇宙戦艦ヤマト』が嫌いでした。
“苦手”ではなく“嫌い”。ハッキリとそう認識していました。あんな有名な作品を!?名作なのに!?と驚かれるかもしれませんが。あくまで個人の感覚・感想だと思ってください。
そもそもTVアニメ『宇宙戦艦ヤマト』が放映されたのは1974年。私は当時4歳でした。完全に“世代ではない”んですよ。私よりも“上の世代”の方々のモノという印象でした。
ただ、物心ついた頃にはすでにブームのあとの“すごい作品”という印象だけが付いて回っていて。観てないやつはアニメファンじゃない!くらいの勢いでしたよ、当時は。けどやっぱり今更なんか追いかけて観る気にはなれませんでした。私も子供だったんですね。
まず、ガミラス星人の肌の色が怖かった。青ですよ?肌の色。いくら敵の宇宙人とはいえ、青い顔した敵の姿は受け入れられませんでした。
戦艦ヤマトがダサイ。子供の時の印象は“え、そのままの姿で飛ぶの?宇宙を!?なんじゃそりゃ!?”という感じでした。ロマンを感じる以前に“ありえない・変”というレベル。
ヒロインの顔が全部同じに見える。森雪も。スターシャも。サーシャも。みーんな同じ顔。みんなまつげが異常に長い。怖い。
みんな同じ表情。気持ち悪い。まあ、子供の頃の“アニメを嫌いになる理由”なんてこれくらいで“十分”なんですよね。こうした理由で私は子供のころに『宇宙戦艦ヤマト』に乗り遅れました。
そうして大人になって。漫画が好きで、アニメが好き(ヤマト除く)で、ゲームが好きで、映画が好きな青年はエンターテインメント業界を目指すようになるわけですが。自分が目指している(憧れの)業界の人たちはみんな口にするわけですよ。富野喜幸(当時の表記)も安彦良和も庵野秀明も島本和彦も。
“ヤマトを潰したい”
“ヤマトに影響を受けた”
“ヤマトがなければ今の自分はなかった”
“ヤマトを自分の手でいつかリメイクしたい”
“ヤマトが日本のアニメブームを作った”
私が目標としている・目指している先人達がみんな“ヤマト・ヤマト・ヤマト”と言うわけですよ。“ちくしょう、また、ヤマトかよ!?”
はい、大人になって完全に改めて正式に『宇宙戦艦ヤマト』が嫌いになりました。20代の頃の話ですね。それから10年以上の年月が過ぎ。ゲームクリエイターとして仕事をしていると様々な人と出会います。
その一人が結城信輝さん。『天空のエスカフローネ』などのキャラクターデザインを担当されているすごい絵を描く方です。ウチ(サイバーコネクトツー企画・制作ゲーム作品)では『テイルコンチェルト』や『Solatorobo それからCODAへ』のキャラクターデザインを担当して頂きました。
ある日。そんな結城さんと打ち合わせのやりとりをしていると雑談の中で
“実は今度『宇宙戦艦ヤマト』のリメイクの仕事をすることになってさ”
と聞かされました。“また・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ヤマトか。”すごい作品であることはわかっているし、知ってる。
けど、ちゃんと観てきていない。イスカンダルに行くことも知ってる。
けど、ちゃんと観たことがない。“ごめんなさい、結城さん。私はちゃんとヤマトを観たことが無いんです!!”そう心の中で叫びましたが。
・・・・・・・・言葉にはできませんでした。
結局、結城さんが手掛けたそのリメイク作品『宇宙戦艦ヤマト2199』を私は観ませんでした。最初は。やっぱり、気まずかった。そして、悔しかった。
今更?
今から?
初めて?
そう、この期に及んで今更観る事が出来なかったんです。つまんない大人になってしまったなあ。我ながらそう思いつつも観れませんでした。
なんか気乗りもせず。結城さんと会っても愛想笑いで極力ヤマトの話題にならないように誤魔化して。なんて嫌なやつなんでしょう。
このままでいいとは決して思ってはいない。いないけどやっぱり行動できない。
・・・・・・・・・・・・そんな。
・・・・私を。
打ち砕いて、崩してくれたのが。
漫画版『宇宙戦艦ヤマト2199』(むらかわみちお)でした。
角川コミックス・エース。2012年からリメイク版アニメのコミカライズとして執筆された漫画作品です。
あれだけ避けてきた『宇宙戦艦ヤマト』を。
この漫画作品が。
この漫画作品こそが。
改めて、私を『宇宙戦艦ヤマト』の世界に引き込んでくれました。
アニメを観る、ということはあんなに億劫だったのに。漫画だと簡単に手にすることが出来ました。むらかわみちおさんの絵が大好きだったこともその要因のひとつですが。気が付いたら単行本の1巻をレジに持っていってました。
そうして本当に“改めて”。42年かかりましたが。
『宇宙戦艦ヤマト』の素晴らしさ・凄さ・恐ろしさを知り魅了されました。
この漫画版『宇宙戦艦ヤマト2199』はリメイク版アニメ『宇宙戦艦ヤマト2199』を単純にコミカライズしているわけでもなく、旧作アニメの設定や没ネタやオマージュも盛り込んだ実に緻密で巨大なエンターテインメント作品となっています。
“・・・・・・・・・・・・・・なんて、面白い作品なんだ。”
こうして、ようやく私は漫画版『宇宙戦艦ヤマト2199』をきっかけに。リメイク版も全話視聴して旧作のTVシリーズや劇場版も全て網羅して、改めて世の先人達がなぜあそこまでヤマトという作品に魅了され憧れ憎悪したのか、ということを知ることとなったのです。
あの時代に。こんなにも恐ろしいほどに素晴らしい作品が生み出されていたのか、と。大げさに聞こえるかもしれませんが、40年もの呪縛から私を解き放ってくれたのは漫画です。
むらかわみちおさんに改めて感謝の念を込めつつ。
かつての私のように。
“ヤマトなんておじさん達が観るものでなんかダサくて乗れないよなー”
って思ってる皆さん。この漫画版『宇宙戦艦ヤマト2199』から入ってみて下さい。きっと新しい発見と衝撃がそこにはあると思いますよ。
WRITTEN by 松山洋
※「マンガ新聞」に掲載されていたレビューを転載
※東京マンガレビュアーズのTwitterはコチラ