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私たちが求める原点回帰はファスナーのあるヒーローだった『仮面ライダーSPIRITS』

1.原点回帰/原点怪奇

みなさんは、特撮好きですか。

好きですよね。

僕も大好きです。

そんな特撮ですが、たくさんのシリーズがありますよね。

シリーズの新作が出るときに、よく聞く単語があると思います。

それが「原点回帰」です。

もともと人気作品だからこそシリーズ化もされ、続いているわけですから、色々試したあとに原点に立ち返ってみようとなるのは自然なことだと思います。さて、その原点回帰ですが『仮面ライダー』の場合、怪奇路線が挙げられます。

『仮面ライダー』は、番組開始当初、怪奇的な作風でした。秘密結社であるショッカーのおどろおどろしさや、怪人が人間を容赦なく殺害するショッキングなシーンは当時の子どもたちを恐怖に陥れたと言います。

そんなわけで、『仮面ライダー』で原点回帰するといえば、怪奇路線なわけです。

現代では特撮技術の向上により、バッタの改造人間であるライダーも、より生物的に、よりグロテスクに、人ならざる者になってしまったことを表現できるようになりました。

言ってしまうと、改造後の姿がカッコイイなら、改造人間の悲哀とはそぐわない。つまり、怪奇路線とは改造人間としての悲哀を表すのに最適なのです。

でも、ちょっと待ってください。もちろん、初代『仮面ライダー』は大人気でした。しかし、人気が出たのは怪奇路線をやめてからでは?


2.人気作品としての原点

初代『仮面ライダー』が爆発的な人気を獲得するに至った要因として、主役を襲った不慮の事故による1号ライダーから2号ライダーへの主役交代に端を発した路線変更が挙げられます。

経緯は非常に有名なため割愛しますが、新機軸として打ち出された変身ポーズをはじめ、わかりやすい悪の大幹部や、怪人たちとのプロレス的戦闘など、どんどんヒロイックで明るい作風へシフトしていきます。

それとともに、テレビ史に残る大人気作品となりました。

いわば、子ども番組としての正解を見つけ出したのではないでしょうか。

だとするなら、人気番組としての原点は明るくヒロイックな子ども向けの作風なのでは?リアルでグロテスクな怪奇路線ではないのでは?

いや、個人的に好きか嫌いかで言われたら、怪奇路線も大好きなのです。ただ、それが万人向けかというと違うようにも感じていました。

これは『仮面ライダー』に限った話ではなく、平成の前半ごろに特撮の人気シリーズはどんどんリアルになっていき、原点回帰をうたうほど、見た目は原点から離れていくという矛盾が生まれました。

作り手としては、昔だって今の技術があれば同じようにリアルに作ったはずです。

理念としては間違いなくリアルな方が正しいのです。

当時、「本当はこういう風に作りたかった」ものに技術が追いついたことで実現出来るようになったのですから。

しかし、ファンの脳裏にある姿は昔の技術で作られたものでした。

なぜなら、かつて好きだったものがそれだったから

これもまた矛盾でありジレンマでした。

そしてこのジレンマは映像だけではなく、漫画でも同じことが起こっていました。

特撮のリバイバル作品は、ヒーローのデザインもディティールが増え、敵もよりグロテスクになり、モブキャラも次々えぐい死に方をするものが多かったのですが、特撮ファンの反応はいまひとつだったのです。

3.『仮面ライダーSPIRITS』という革命

前置きが長くなりましたが、平成13年、そんなジレンマを払拭する作品が彗星のごとく登場します。

それが『仮面ライダーSPIRITS』でした。

本作では、仮面ライダーも怪人も、昔の姿のまま登場します。

当時の映像で見ていたままの姿が、精密に描かれているのです。体型も、ポーズも、怪人の鳴き声も、思い出の姿そのもの。仮面ライダーも怪人も、背中や胸のファスナーすら描かれているのですから。

それは衝撃でした。

僕らが見たかった原点回帰はこれだったんじゃないか?

生物的な見た目にアレンジするのではなく、ディティールを増やす方向でリアルにするのでもなく、当時の映像を精密に再現する全く新しい表現方法でした。

当然ながら、本来、ファスナーやビス等はないはずなのです。当時の技術では、それを隠して作れなかったから見えてしまっていただけなのです。繰り返しますが、理念から言えば無い方が正しいのです。

でも見たいのはある方だった。

これは天動説が地動説にひっくり返るくらいの衝撃でした。

また、本作の凄いところは、見た目は当時の映像そのままな一方で、必殺技はド派手に描かれることです。

例えば、Xライダーの真空地獄車という技は、当時の映像技術では怪人とごろごろ転がるどこかシュールな見た目となっていました。しかし、本作では、超高速回転で怪人を何度も叩きつける、極めて説得力のある必殺技として描かれます。同様に、すべての技が、「本当はこういう風に作りたかった」を描き出した超絶カッコイイものになっています。

つまり、「見た目」は「僕たちの思い出の姿」で、「活躍」は「最新のド派手さ」となっている。これは発明でした。

その上、深い『仮面ライダー』愛に満ちたストーリーでは、歴代ライダーたちの大活躍はもちろん、バイプレイヤーも全て登場し、ずっとファンの心残りだった当時の番組での未消化の伏線まで回収し、読者を唸らせます。しかも、懐の深い人間ドラマが綿密で、『仮面ライダー』を知らない人でも楽しめます。

特筆すべきは、改造人間としての悲哀もちゃんと描かれているということです。生物的リアルさとは違うけれども、読者はヒロイックな仮面の向こうに、それを感じることができたのです。

おわりに

そんな本作は、掲載誌の休刊と移籍により、『新 仮面ライダーSPIRITS』と名前を変えて現在も好評連載中です。

物語は佳境を迎え、いよいよクライマックスが迫ってきています。

本作では、「自分はこれが見たかったんだ……!!」という自分自身でもわかっていなかったものの正解例が飛び込んできた衝撃を受けました。そのラストも全く想像がつきません。

しかし、きっと最終回を読んで、「自分はこれが見たかったんだ……!!」と思うと確信しています。

たくさんの人に読んでほしい作品ですし、ぜひみんなでクライマックスを楽しみましょう!!

そう、人はみな、少年ライダー隊員なのだから……。

WRITTEN by 澤村 晋作
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