「正義のために命を落とす子」か「臆病で命が救われる子」かーー。この問いに、あなたはどう答えますか?『かしこくて勇気ある子ども』
【レビュアー/こやま淳子】
私には子どもがいない。あまり欲しいと思ったこともないほうだと思う。けれど、この漫画のテーマには、そんな私にも他人事じゃないと思わせるような、深く感情移入させられるものがあった。
物語は、子どもができた夫婦の幸せに満ち溢れた日々から始まる。色鉛筆で描かれたような絵柄はかなりおしゃれで、漫画というより大人の絵本といった感じ。
そんなほんわかした雰囲気の日常に、ある日、ふとした不安が入り込んでくる。子どもができたら、かしこくて勇気ある子どもになって欲しい。けれど、もしもその子が、かしこくて勇気あったせいで、命の危険にさらされたとしたら?
たとえば誰かを助けたせいで、もしくは何かの正義を貫いたせいで、自分の命を落としてしまうような人間に育った場合、そのご両親は、そんなわが子を誇らしいと思うだろう。しかし同時に、どうして自分の命を優先してくれなかったんだろうと、そんなとき足がすくんで動けない子でいて欲しかったと、つい思ってしまうかもしれない。
この物語は、そんな誰しもが答えに詰まるような二択を突きつけてくる。子どもを生み、育てるということは、かくも難しい選択肢の連続なのだろう。何かすごく変わった出来事が起こるわけでもなく、特別な事情を秘めているわけでもない平凡な夫婦にも、本人たちにとっては泣き叫びたいほどの不安に打ちのめされそうになるときがあるのだ。そうした人間らしい感情の起伏と、命を育てるということの重みが、独特の手触りで伝わってくる。
誰か友人に子どもができたら、それとも小さな子どもの友人ができたら、そのときはきっとこの本を贈ってあげよう。そんなふうに思えるような、素敵な1冊だった。