あなたはどのタイプ?一言ではくくりきれない令和オタクの生態系を知る『神クズ☆アイドル』
【レビュアー/bookish】
いそふらぼん肘樹先生の『神クズ☆アイドル』は、やる気のない男性アイドルに女性アイドルの幽霊が取り憑き、アイドル活動をするというコメディもの。
憑依の有無でアイドル活動のやる気が上がったり下がったりするところの面白さはもちろん、彼らを取り巻くオタクたちにも注目です。私たちオタクがここにいるからです。
やる気のない男性アイドル×やる気に満ちた女性アイドルの幽霊=支離滅裂系アイドル?
男性アイドルコンビ「ZINGS」のメンバー・仁淀ユウヤは顔の良さでスカウトされたものの、アイドル活動をやる気がない。ライブでのトークなどは相方にまかせっきりで、そのやる気のなさはなんとライブ中に椅子に座るぐらい。楽して稼ぎたいだけで「ファンの気持ちとかわからない」と思ってしまいます。
そんな仁淀と出会ったのは事故で亡くなった女性アイドルの幽霊・最上アサヒ。アイドルを続けたい最上と、楽をしたい仁淀の間で交渉が成立し、最上は仁淀に乗り移って代わりにアイドルをやることになります。
男性アイドルに女性アイドルの幽霊が取り付いて活動することになるのですが、普段の言葉遣いや立ち振る舞いを除けば、ファンサービスなどに違和感がないことに驚きです。アイドル文化は性別の壁を超えるのでしょう。
多種多様なオタクの姿
それまでやる気のなかった仁淀がいきなりファンサービスを増やすなどのギャップの大きさと、少しずつ最上アサヒに影響されてアイドル活動に前向きになる仁淀の成長が話の本筋なのですが、作品をさらに面白くしているのは、登場するアイドルを推すオタクの姿の描写です。
男性アイドルということで多くのオタクは女性です。しかし、散在型、学生型、限界型など同じ「女性オタク」といっても様々なタイプがいます。『神クズ☆アイドル』では居酒屋にファンが集まりわいわい話しているシーンや、めったにないSNSの更新、ファンサービスへの反応などを通じて描き分けています。
「身の丈に合った活動してくれないとオタの心臓はついて行けねえよ!!」など描かれるオタクの叫びは2次元・3次元含め推しがいる方には覚えのある感情ではないでしょうか。そして自分の好きなアイドルのファンを増やすために布教の手間も惜しまない。こうした熱い感情は、3次元アイドルに対してだけでなく、漫画やアニメ、ゲームといった2次元のキャラクターに対しても同じでしょう。
こうしたアイドルオタクの姿が描かれている作品は他にもあります。その中の作品のひとつが桐炭保ゆとり先生の『推しのいる暮らし』。こちらは男性地下アイドルにはまる男性オタクの姿を描いたもので、物語が進む中でオタク仲間が増え、学生のオタクからひたすら課金する人まで様々なオタクの姿が描かれます。
『推しが武道館いってくれたら死ぬ』に登場する女性のアイドルオタク・えりぴよは持ちうるお金すべてを推しアイドルにつぎ込むタイプで、えりぴよ自身は常に高校時代の赤ジャージを来ています。
しかし、現実のオタク活動の様子を見ると、女性のオタクを中心に必ずしも身なりをかまわない人ばかりではありません。そうした『推し武道』では削られていた部分を補うのが、『神クズ☆アイドル』であり『推しがいる暮らし』なのです。
もちろんアイドルオタクもいろいろなタイプがおり、オタクの推しの対象もアイドルに限るわけではありません。これらの作品だけでオタクの姿のすべてを描いたとはいいきれませんが、これらの作品で、その生態をわずかばかりでも垣間見ることはできそうです。