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女子刑務所という世界を『ムショ医』は教えてくれる。服役中の妊婦に与えられる選択肢から刑務所慰問で涙する受刑者の理由を。

※本記事は、「マンガ新聞」にて過去に掲載されたレビューを転載したものです。(編集部)

【レビュアー/工藤啓

罪を犯して少年院や刑務所に入るひとたちに対して、厳罰化推進の声がある。いま、ヤフーで行われている意識調査「少年法の厳罰化についてどう思う?」では、50,000人を越える投票のうち、90%を越えるひとがさらなる厳罰化を求めている。

過去のレビューでは死刑制度の在り方について書いた漫画『モリのアサガオ』を取り上げましたが、賛否はわかれたものの把握できる範囲では「死刑あり」が多数であった。

死刑制度の存在有無については、人が人をどこまで裁けるのか。冤罪などの可能性があるなかで生命を奪うことが許されるのかなど議論は多岐にわたる。刑務所や少年院に服役する可能性は誰にでもあるが、周囲を見渡して、実際に服役経験者がいなければ、その「中」の生活を想像することは難しいかもしれない。

先日、私は少年院の「中」にいる子どもたちの支援活動の一貫でPC講習のアシスタントをしてきた。そこにいたのは「漢字、アルファベットが理解できない少年院の子どもたち」であった。

今回取り上げる『ムショ医』は、日本最大の女子刑務所「北浦刑務所」の非常勤医となった粂川晶の視点を通じ、女囚の日常とそれぞれが“抱えている何か”に迫っていく。刑務所や少年院ではなく、女子刑務所および女囚の処遇や日常を知り得る貴重な漫画であり、また、医師の立場であるからこそ見える世界観が描かれている。

最近では、刑務所に服役する高齢者の増加が叫ばれている。高齢化による人口ボリュームの問題もあるかもしれないが、過去のように子どもや孫に囲まれながら暮らす高齢者像から、地域社会や家族からも孤立した高齢者の話もよく聞く。

当然のことながら、人間は老い、病気になる。それは刑務所内であっても例外ではない。病気となればそれは医師が診る仕事となる。

本書でも多数描かれるが、塀の外の世界に絶望し、帰住先もやりたいこと(やれること)もないため、生きていることにすら価値を見出せない女囚もいる。

特に、服役前の環境やひとのつながり、立場などが服役中に変わることで、精神的に不安定となり問題を起こしたり、その不安定さが囚人間の立場の逆転を起こしたりすることもあるようだ。

そうはいっても少なくない女囚が持つ退院後の希望は子どもに会うことだろう。

理由はどうあれ、自らの子どもや孫に会えない生活は寂しさを助長し、一方で、子どもとの新たな生活を希望に毎日を生きている女囚もいる。最近では、芸人のゴルゴ松本氏の慰問活動が有名であるが、特に小さな子どもたちや、自身の子どもや孫を想像させる慰問活動などで、女囚の多くが涙することもある。

それ以外でも、女子刑務所という特質上、服役が始まってから「出産」に至るケースがここでは描かれている。私も女子刑務所ではなく、女子の少年院の話のなかで、妊娠をしている状態で入院し、出産をどうするのかという話を聞いたことがある。

実際には、出産後の赤ちゃんは自身での養育が厳しいということで、児童養護施設(乳児院)に預けられることになるようだ。

その後は、特別養子縁組になるのか、里親の元で暮らすのか、ずっと施設なのかはわかれるが、『ムショ医』のなかでは、妊娠していた女囚が出産するまで、さまざまな選択肢があり、当然その裏には外部病院との連携の難しさなどもあるが、総じて赤ちゃんを守るような立て付けになっているように思える。

いじめや力関係の変化、職員側の葛藤やリスクなど、女子刑務所という外部からは伺い知ることが難しいテーマが描かれた『ムショ医』は、一般教養としても、また、“本当に厳罰化が適切な方向性なのか”という社会的アジェンダを考えるきっかけを与えてくれる漫画である。



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