かわぐちかいじ作画によるビートルズファンの熱い願いがこもった傑作タイムスリップ漫画『僕はビートルズ』
これ、自分が作ったことにならねぇかな〜
ゲームを作る仕事をしていると、たまに「これ、自分が作ったことにならねぇかな〜」という作品に出会うことがあります。
不思議なもので、自分が取り組んでいる仕事の延長線上に位置しているように感じられて、これはいつか自分だって作れたかもしれない…と思ってしまう作品がたまにあるのです。そういうときはやっぱり悔しいものがあります。
でももし、本当にそれを自分の作品にできるとしたら、一体どういう気持ちになるんでしょうか。自分が考えたものではない優れたコンテンツがあって、それを誰も知らないとき、一体人はどうするんでしょう。
『僕はビートルズ』は、図らずもそんな世界に放り込まれたクリエイターたちの物語です。
誰もビートルズを知らない時代にタイムスリップしたら
主人公はビートルズのコピーバンド「ファブ・フォー」の4人。ショウ・マコト・コンタ・レイ。彼らのテクニックは自他ともに認める一流であり、技術だけなら「本物以上」と自負しているほどでした。
『僕はビートルズ』(かわぐちかいじ/藤井哲夫/講談社)より引用
しかし、バンドの方向性に関するいさかいからギタリストのレイが脱退を決意し、2010年3月の六本木ライブを最後に4人のバンドは解散することになりました。
『僕はビートルズ』(かわぐちかいじ・藤井哲夫/講談社)より引用
ライブを終え、一人帰路を急ぐレイ。マコトとショウは最後の説得のためにそれを追いかけます。しかし駅のホームでの会話は決裂。カッとなったマコトはレイを突き飛ばし、ショウと一緒に線路に落ちてしまい、そこに電車が入ってきて…!
ブラックアウト…その後マコトとショウが目を開けたその場所は、あの世でも六本木でもなく、なんとの1961年の井の頭公園。彼らはタイムスリップしてしまったのでした。
1961年はくしくも、ビートルズのレコードデビュー1年前。デビューこそしていたものの、まだ世界は彼らの音楽を知らない時代です。
そこでマコトにあるアイデアが浮かびます。それは、自分たちがビートルズの曲を発表して、ビートルズになってしまうということ。そうすれば、この時代にいる本物のビートルズは、自分たちの知る未来では存在しなかった幻の214番目の曲をつくってくれるのではないか…というものでした。
『僕はビートルズ』(かわぐちかいじ/藤井哲夫/講談社)より引用
このアイデアが時代に与えた影響は何か
マコトのアイデアは、明らかに盗作の一種です。
とはいえ、その行動は僕が冒頭で述べたような俗っぽい虚栄心から来るものではなく、一応の理もあります。いちビートルズのファンとして、どうしても聴きたい「もう一曲」のためなのです。
狂気にも思える方法ですが、もし自分が似た立場にあったとしたら絶対に同じことをしないと言い切ることができません。例えば、どうしても完結まで読みたかった漫画があったけれど未完に終わってしまっていて、自分がそれを途中まで描けば続きが読めるかもしれない…とか。
そんな彼らの決断は、ビートルズの楽曲が持つエネルギーもあって、時代にどんどん大きな影響を及ぼすことになります。果たして、本当のビートルズは幻の214曲めを描くのか。そして彼らは、元の時代に戻ることができるのか。
あるビートルズファンの願いを描いたストーリーであり、異世界転生モノでもあるという快作。これが『僕はビートルズ』です。全10巻でサラッと読めてしまうのも良い感じです。
WRITTEN by ミヤザキユウ
※東京マンガレビュアーズのTwitterはコチラ