「あたし大腸が無いの」驚愕の闘病ギャグ漫画は、背筋も凍るヤブ医者との奮闘記だった『腸よ鼻よ』
【レビュアー/新里裕人】
漫画のジャンルとして「闘病漫画」と言われるものがあります。
おもに作者自身や親族などが病気にかかり、その治療もしくは看病を主題に描いたノンフィクション漫画の事です。
正直私は、この手の漫画が苦手です。
フィクションならば、腕が吹き飛ぼうが内臓飛び出そうが全く平気なくせに、「実話」となった瞬間、シーツに血がにじんだだけでも、もう駄目。
無意識に、登場人物を自分や身内の人間に置き換えてしまい、ページをめくる手が重くなってしまいます。
そんなヘタレな私が「普通に」読めた闘病漫画。
それが本作です。
闘病生活を描く切り口は「ギャグマンガ」
物語は謎めいた美女が、とあるバーのカウンターに座り、島サンライズ(泡盛カクテル)を注文する所から始まります。
つまみに出されたシマチョウを感慨深げに見つめる彼女に思わず理由を聞くマスター。美女は、女の過去を聞くなんて野暮ね、とたしなめながらぽつりとつぶやきます。
あたし大腸が無いの
そんな殺し文句、聞いたことねえ……!!
そして彼女(作者)は、自分が腸を失うまでの物語を語り始めるのでした。
あのとき私はティーンエイジャー
夢みる少女だった…
夢みる少女のトイレの中は真っ赤
物語は、作者の学生時代(19歳)になります。
漫画家を目指して執筆活動を行いながら、複数のバイトに追わていた彼女は、ある日ふと、用を足すたびにトイレが血まみれになっていることに気付きます。
慌てて病院で診てもらうと診察結果は腸炎。
……しかし、2週間たっても3週間たっても「腸炎」は治りませんでした。
本当に笑うしかない、医者の「診察力」
このような感じで、作者の闘病生活が描かれていきます。
最初の担当医のやり取りについても、ギャグタッチでテンポよく描かれているのですが、その無責任な医者のやり取りが
「外見以外、受けた治療や言われたことはすべて事実」
だったと書かれており、急に背筋が寒くなります。
リアルで(しかも)医者と患者でボケとツッコミの漫才が成立する恐怖……
絶対に体験したくないシチュエーションです。
なんだかんだ、さんざん回り道をした挙句の内視鏡検査で、ようやく彼女が
発症原因不明の難病特定疾患、潰瘍性大腸炎であると判明します。
そしてここから、本当の闘病生活が始まるのでした!
ためになるけど役に立てたくない闘病知識
まず、受け入れなければならないのは「藪医者は本当にいる」という事。
ときには現状の診断に疑問を持ち、セカンドオピニオン等の選択肢を選ぶ必要がある、ということです。
作者はこの後、家族の助けや、新たな医師との出会いによって救われていきます。
何より、この境遇をギャグタッチで描ける作者のメンタルが偉大!
アクの強いキャラクターが多数登場して、大変な事態が何度も起こりながらも「しょーがねえなー」という感じで苦笑いしながら、ハードな闘病生活を
乗り越えていく姿が、なんだかすごく共感できました。
現在5巻まで刊行。
なお作者は、現在も闘病中だそうです。