少女マンガ研究家が選ぶ、初心者にもおすすめティーンズラブコミック4選
わたくし和久井が少女マンガ研究家という肩書きで仕事を始めて、もうすぐ10年くらいでしょうか。
ちょっと肩書き過多な感じがするので、なにかよい肩書きはないかしらと思っているのですが、なかなかしっくりこず、メディアに登場する際は制作から「研究家でお願いします」と言われてしまうので、そのまま使い続ける羽目になってます。まあとにかく、女性向け漫画をこよなく読む人、ということで活動をしています。
女性向け漫画には、少女漫画、レディースコミック、ティーンズラブコミック(TL)、BLコミックなどのジャンルがあります。
なかでも2000年代に登場したTLは、最もジャンルとして新しく、今とても活気があります。
今回は少しそんなお話を。
TLを読む前に〜歴史と構成〜
女性向けのエロ漫画自体は90年代に登場していますが、当時はまだ制作方針が固まっておらず、女性ウケする設定・展開が計り切れていませんでした。大人の女性向けコミックも同様で、80年代に登場したときには、くらーく苦しいOL生活、みたいなのばっかり描かれていました。
それが作品を積み上げていくうちに、だんだんとわかってきます。結局のところ、読み手の年齢・目的を問わず、基本は少女漫画と求められていることは変わらないということが。内容としては溺愛だったり、コンプレックスからの脱却だったり、自己肯定への道だったりですね。
これはTLにもBLにも実は当てはまります。
現在TLは作品の飽和期を過ぎ、社会の変化を少しずつ受け入れながら、ストーリー展開にも工夫が出てきているように感じます。
アダルトビデオには定型の展開ってありますよね。女教師ものならだいたい女教師を██るのが基本で、████て██したり、████したりするんでしょ、みたいな。
TLにもだいたいのジャンルがあって、最近人気の任侠もの、女教師もの、社長または上司と部下もの、近親ものなどが多いかな。まあ、社長や上司もののTLって、どう考えてもセクハラだろって感じですが。
男性向けのアダルト作品とTLが大きく異なるのは、「ヤリステ」がないことです。多少無理矢理でも、相手の男性には必ず相手に対する深い愛情があります。男性が██って██って鼻息荒くして、もう██れば誰でもいいんだ██████みたいな展開はありません。
相手の男性が理性を失うと、女は不愉快な目(それも命の危険がある)にあう可能性が高いので、TLに登場する男性はいつでも冷静です。そのための仕掛けをどう作るかが作品のキーです。
例えば「淫魔」ものは、一定の需要があります。自分は求めていないけど「淫魔にとりつかれて仕方なく」とか、まあ行為やテクニックのうまさを淫魔の能力せいにするんですね。一般社会では淫魔ってなんじゃいって感じだけど、TL界やBL界では重要単語です。
それからシークも重要単語です。ハーレクインロマンスに端を発したシークものですが、イスラム民族の首長であるシークに溺愛される話はめちゃくちゃ多いです。金持ち+男らしさみたいなイメージなんでしょうね。ほんとかよ。
男性が理性を失っていいのは、主人公を溺愛しているときか、淫魔のせいかどちらかです(断言)。
ではTLの基本を押さえたところで、個人的に面白かったTL作品をご紹介しますね。
おすすめTL作品その1『俺の腕の中で、堕ちろ~天使は淫魔の契約奴隷~』
孤児で心優しいマリアは、森で死にそうになっていた王子様を助けるために、淫魔と契約します。契約相手が淫魔だったので、マリアは夜な夜な淫魔から大サービスを受けることになります。だけどその淫魔の力は絶大で、マリアは王子様を好きなのに、淫魔の█や█から████ほどの██を与えられ、██され続けてしまうんです。このあたりの淫魔のテクニックが見せ所です。なにしろ淫魔の████を経験してる人はこの世にはいない(はず)なので、想像の翼は果てしなく広がります。一方で王子様とは超絶プラトニックな関係を続けています。気持ちでは王子様を求め、身体は淫魔を求めてしまうジレンマ、みたいな。清廉な少女が悪い悪魔に追い回される話は、『悪魔の花嫁』から続く伝統ある展開ですね。でもこの『天使は淫魔の……』は、ラストがすごかった。予想を裏切る展開なのに、めっちゃ少女漫画的で感動的です。しかも少々辛辣。王子様と██████████なのに████し████だし、王子様がめちゃくちゃ████なんです。リアルでもこういうのあるあるっぽいところが怖い。男性は我が身のことと思って読んでほしい。ラストがおざなりになりがちなTLの中の作品でも、いろいろと衝撃でした。
おすすめTL作品その2『制服プレイシリーズ』
時代をさかのればさかのぼるほど、性に対して女性は否定的な気持ちが強い傾向にあります。親の教育も厳しかったし、知識はないのにセクハラされるしで、性の話が苦手な女性は多いです。TL作品にもそれは反映されていて、心の葛藤を描くことが多いので、コミカルになりづらい部分があります。しかしこの『制服プレイ』は、サラッとタブーを乗り越えています。時代が変わったとも言えそう。相手は親戚の幸男。椿が通う高校の教師でイケメンの変態です。子供の頃から椿のことが好きで「入学式に██を██うことが夢でした」と言って襲いかかります。幸男は変態なので██して「喉から███が出そう」とか変態じみたことをたくさん言ってきます。椿が鬱々と悩まないのが大きな救いで、TPOをわきまえず年中█████幸男と椿のかけあいが面白い作品です。しかしこれリアルでやられたら間違いなく犯罪だし、女の子に生涯癒えない傷を残すこともありそうです。幸男がかろうじて許されるのは、椿に溺愛していることと、欲望以外の部分ではとても大事にしていることです。男子はこうした作品を読むときに、都合のいいところだけをつまんで解釈しないようにしてほしいものです。
おすすめTL作品その3「冬森雪湖さんの作品」
作者の冬森雪湖さんの作品はたいてい設定がめっちゃ壮大です。『快楽箱庭』は、両親の借金のかたにお金持ちのイケメンに買われた女の子の話。『甘やかな花の血族』は、女子の大好きな血族もので、血族の因縁が自分に因果して逆ハーレムになる話。『失楽園に濡れる花』はサスペンス仕立てで、父親を自殺に追い込んだ犯人にすべてを奪われた主人公が復讐に立ち上がる話です。どの作品にも共通しているのは、相手の男性が大いなるトラウマを持っていること。「そーんな辛い目に遭ってるなら、病んでても仕方ないよね!」みたいなかんじ。男性がトラウマ持ちのアンニュイ系なのは女性向け作品あるあるですが、病んでいてアンニュイだから、██とか███を███きても大丈夫。だって苦しんでいるんだから多少███ても許してあげちゃう! ってこの思考、私は割と影響受けててヤバい。
それから特筆すべきは、主人公たちにめちゃくちゃ向学心があることです。作品中もひたすら勉強します。劣情にまみれてTLを読んでる読者の立つ瀬がない気もするけど、TLで「本を読みなさい」「自立しなさい」と説教してくる希有な作品です。
おすすめTL作品その4『アゲまん囚獄船~痴戯蜜愛』
Amazonでは発売してないので、ぜひ電子書店でお買い求めください。発想がめちゃくちゃ面白くて、真面目に語られてるのにコミカルな作品です。大学生のミズキは、手相に「アゲまん線」があり、福を運んでくるのだとか。それを信じた大学生たちが、次々にミズキを襲ってきます。そしてさんざんサービスした末に、ミズキが██ときに、一斉にナムナムと願い事を唱え唱え出すんです。「就職がうまくいきますように」「試験に合格しますように」などなど……。ミズキちゃんは流れ星なのか?
しかしただ████するんじゃなくて、██せないと願いが叶わないので、みんな大いにサービスしてくれます。そのあたりが見せ場だし、読んでて不快にならないポイントです。なかなか設定がうまい。
というわけで、秋の夜長、長い夜だけにぜひTLの世界をお悦しみください。
※本文中、公序良俗に反する表現には自主的に墨を入れさせて頂きました。心の目でご理解ください。
WRITTEN by 和久井 香菜子
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