障害が日常に溶け込む世界を真摯に描く、視覚障害の本質理解につながる名作『ヤンキーくんと白杖ガール』
【レビュアー/和久井香菜子】
和久井は少女マンガ研究家ですが、一方で合同会社ブラインドライターズという会社の経営もしています。こちらは、視覚に障害がある方を中心に、なんらか就業しづらい状態にある方をメインに構成している会社です。主に、音源データをテキスト化する「文字起こし(テープ起こし、反訳とも)
』のサービスを行っています。
漫画は視覚障害者が読めない代表的メディア
あまり知られていないことですが、視覚障害は中途が多く、点字を読めるのは半数以下と言われています。子どもの頃から点字を習わないと読めるようにならないようです。
IT技術の発展で、文字ベースの書籍は「自動読み上げ」により読書が可能になりました。しかし同じ電子でも、PDFなどの画像になっていると読み上げてくれません。そう、漫画は今のところ、視覚に障害があるとダイレクトに読むことが出来ないのです。
視覚障害者向けの図書は今のところ2種類あります。音声図書と、点字図書です。音声図書は、ボランティアさんなどが読んでくれたものをAudibleのように耳で聴く図書です。点字図書はもちろん、点字に変換された図書です。
漫画もこれらの図書に人力で変換すれば読めます。音声や点字にするのはとても技術がいるそうです。風景とか人の表情とか、どんなことを翻訳するのか、確立された方法があるわけでもないようです。
和久井が聞いたのは、「音声図書へリクエストがあったのが『ゴルゴ13』だったのでとても大変だった。そもそもゴルゴは登場しても喋らない」だそうで。視覚障害的には、喋らなければいないと同じ。これは大変そうです……!
今まで視覚障害リアルはほとんど描かれてこなかった
視覚障害者が登場する話というと、実は漫画にはたくさんありますね。『北斗の拳』のトキとか。『炎のロマンス』では、主人公の目が見えなくなったと思ったらあっという間に治ってました。その他『伯爵令嬢』『悪魔の花嫁』『恋文日記』などにもちょいちょい登場します。
しかしどれも彼らの生活を描写するにはほど遠く(そもそも現代の話じゃないし)、障害がドラマチックに描かれることが多かったように思います。テレビドラマ(夏にチャリティでやるアレ)で取り上げられると、「障害があるけど頑張った」みたいなポルノになってることが多いですね。
そういう中で『ヤンキーくんと白杖ガール』は、視覚障害のあるあるを真摯に紹介したこと、そして全盲ではなくロービジョンを取り上げたことでも評判になりました。
日本では、まったく見えない全盲と、見えるけど見えづらいロービジョンは、どちらも「視覚障害」とひとくくりにされてしまいますが、その特性は大きく異なります。英語だとblind とlow visionでまったく別物で「視覚障害者対応」なんて言うときも、blind and low visionなどと、ちゃんと分けて表記されるようです。
組み合わせが最高の主人公カップル
見た目が怖くて誤解されがちなヤンキーと、見えないからそのバイアスがないロービジョンの女の子の組み合わせって、もう最高にいいですよね。障害=不便とかかわいそうじゃなくて、いいこともあるよっていうメッセージが前向きです。
『ヤンキーくんと白杖ガール』(うおやま/KADOKAWA)1巻より引用
この作品は2021年の秋ドラになり、これまた評判になりました。漫画はシリアス4コマですが、ドラマでは漫画で表現されていた本質的な部分を特定して、しっかり視聴者に伝えようという意志と努力が感じられました。漫画はかわいいし、ドラマは面白い。わざわざ視覚障害について解説するシーンがあったことも、本気度を感じます。そして2人がソワソワするシーンでは真剣に悶えました。
インクルーシブなんてよく言われますが、身近に障害のあるかたがいる人かって、話しているとわかります。関わりがないと、悪意はなくてもめっちゃ偏見を持っているんですよね。
障害にも知的や精神、身体といろいろありますが、一緒くたにしている人も多いと感じます。私はアジア人の見た目だからって海外で「ヘイ、そこの中国人、ニーハオ!」とか言われるとめっちゃイラッとするので、ひとくくりに「障害者」として扱われるのが不愉快という気持ちはよくわかります。
障害者向けのサービスは、健常者も楽しい
アクセシビリティとかバリアフリーというと、一部の人のための特別なサービスと思う人も多いと思いますが、まったくそんなことはありません。
『ヤンキーくんと白杖ガール』(うおやま/KADOKAWA)1巻より引用
音声ガイド付きの映画を観るの、とても楽しいです。私は3回目の映画版鬼滅で体験しましたが、とってもよくできていて新しい発見がありました。
今や電子書籍の自動読み上げは私のメインの読書法です。
『ガラスの仮面』で、ヘレン・ケラーを演じる予定の亜弓さんが、障害者施設に見学に行くくだりがありました。勉強熱心でステキですね。『ヤンガル』ドラマでも全盲役の男子が、ホントに全盲っぽくてよかったです。すごく勉強したのがよくわかりました。
障害がドラマではなく日常になっている作品がもっと増えるといいなと思います。
筆者注:「障害」という文字が差別的だという意見があり、「障がい」と表記するメディアが多いですが、ブラインドライターズでは「障害」で統一しています。当事者にヒアリングしたところ、気になるというスタッフはひとりもいなかったこと、自動読み上げで誤読する可能性があることなどが理由です。