2019ベルリン観劇記録(18)『Orlando』
10月25日
Orlando オーランドー
劇場 Schaubühne シャウビューネ
原作 Virginia Woolf ヴァージニア・ウルフ
翻訳 Brigitte Walitzek
上演テキスト Alice Birch
演出 Katie Mitchell ケイティ・ミッチェル
演出協力 Lily McLeish
舞台美術 Alex Eales
映像監督 Grant Gee
映像 Ingi Bekk
映像協力 Ellie Thompson
音楽/サウンドデザイン Melanie Wilson
ドラマトゥルギー Nils Haarmann
照明 Anthony Doran
撮影カメラ Nadja Krüger, Sebastian Pircher
音声マイク Stefan Kessissoglou
ケイティ・ミッチェル演出作を観るのはこの『オーランドー』が三本目となる。前回観たSchatten (Eurydike sagt) (※1)と手法は同じく、舞台上方のスクリーンに映し出される映像をリアルタイムで撮影するというもの。例えば同じシャウビューネのMilo Rau 演出作LENIN (※2) も似たような作りだが、こちらは予め組まれたリアルなセットの中で撮影が進み、ライブ映像は非常に「映画っぽい」仕上がりだ。ケイティ・ミッチェルの演出では、「演劇のウソ」と「映像撮影のウソ」がより複雑に絡み合うため、衣装やセットの早替えに費やされる多人数のスタッフワークを、ハラハラしながら見守ることになる。いつかスタッフや機材が映り込んでしまうのではないか、俳優が遅れてしまうのではないか、誰かがタイミングを間違えてしまうのではないか、と非常にスリリングである。(知人によると、例えばオーランドーのキューは1400にもなるとのこと!)
(※1)Schatten トレイラー
(※2)LENINのインタビューと稽古風景
ケイティ・ミッチェルとAlice Birch が「舞台上で起こること」と「ライブ映像」を組み合わせた演出で追求するのは、数世紀に渡り家父長制に支配されてきた人間の歴史を巡る、オーランドーの奇妙な旅である。(シャウビューネHPより抜粋、拙試訳)
ヴァージニア・ウルフの6番目の長篇『オーランドー ある伝記』はきわめて特異な作品である。なにしろ主人公のオーランドーが、16世紀のイギリスに16歳の美少年として登場し、その後300年あまり生きつづけ、作品の終わりの1928年にあってもまだ36歳の若さであるばかりか、17世紀にはあろうことか「男」から「女」へと性転換しているのだ。(......)
この作品がヴィタ・サックヴィル=ウェストに献げられているように、これはまず彼女への「史上もっとも長い、魅力的なラブレター」である。そして、主人公のズボンがスカートに変わるときに生ずるジェンダーの問題を取り上げれば、これはフェミニズムの作品であろう。さらにまた、いわゆる「伝記」のコンヴェンションを解体してゆく作法を見れば、これは「メタバイオグラフィ」ということになる。(......)(みすず書房HP 『オーランドー』作品紹介より抜粋転載)
今作は昨年観たSchatten に比べると前撮り映像の挿入が多く、ライブ撮影の緊張感は減じていた。とは言え、先に述べた通り1400キューに上る精緻なスタッフワークは見応え充分だ。今日の上演では一箇所だけスイッチングミスが起こったが、それもご愛嬌だろう。
約2時間、舞台上のあちこちで何かしらが絶え間なく動くため、正直なところ台詞のヒアリングにはほとんど集中できなかった。かなり視覚情報に頼った感想となるが、私が特に感じたのは、性転換や女性として生きることの困難さ、ジェンダーのバイアス、同性愛、両性愛などへの理解が、16世紀から21世紀にかけて不充分とはいえ改善している、ということだ。例えば数ある食事のシーンの中でも、21世紀のロンドンで様々なジェンダーの人たちが楽しそうにキスをし合う最後のパーティが最も美しかった。
最後に。Orlando やSchatten を観る機会があるならば、カーテンコールの際に露見する数え切れないほどのバミリにぜひ注目して欲しい!