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【第3話】アプリの通知に埋もれる本音|ボロボロの心を覆い隠す日々
前回のお話▼
マッチングアプリを入れてからの毎日は、ものすごく慌ただしく過ぎていった。
朝起きてアプリを開くと「無料でいいねができます!」というポップアップが出る。適当にスワイプして、メッセージリストを開く。
前日の夜にやりとりしていた男性とのメッセージがずらりと並んでいて、古い順に返信をしていく。その作業はなんとも機械的で、それでいてかすかな人の温もりも感じられていて。元彼に対する未練や後悔を感じたくない私にとっては、ぴったりの作業だった。
「つむぎさんしかまともに返信してくれる人いないんだよ〜」という声は、何度も聞いた。まあそうだろう、マッチングアプリにこんなにも全力で取り組んでる人なんて、そうそういないはずだ。
基本的には常にアプリの通知をオンにして、日中でも夜でもすぐに返信をする。そうしていないと、アプリの通知があふれかえって大変なことになってしまうから。
20人ほど同時進行で毎日やりとりをしていて、正直私は何も考えていなかった。この人とどうなりたいとか、会ってみたいとかいう気持ちはまったくなくて、元彼との思い出に自分の心が溺れてしまうのをただひたすらに避けたかっただけ。
だから私から「会いませんか?」と誘ったことは一度もない。適当にやりとりを続けていたら、どこかのタイミングで「会いませんか?」と向こうが声をかけてくれるから「いいですよ」と返す。ただそれだけの作業だった。
実際に会う日時も決めてスケジュールが埋まってくると、それだけで「婚活してる感」を得られて安心だった。
私は未来に向かってちゃんと進んでいる、後ろは振り返っていない、大丈夫。Googleカレンダーに予定を入れるたびに、そう自分に言い聞かせていた。行動していれば、もしかしたら運命の人に出会うかもしれないし。そんな淡い期待もあった。
家に引きこもっているだけだったら「もっと早く元彼の変化に気づいていたら、もっと早く2人の溝を修復できていれば」なんて、もうどうにもならないことを考えては心が病んでしまいそうだった。
だから次の恋愛に向けてどんどん動くことで、壊れそうな心をギリギリのところで保とうと必死だったんだと思う。
心の整理なんて、してる場合じゃなかった。というか、ボロボロの心に真正面から向き合う器も勇気も、私にはなかった。そんなことをしてしまったら、自分が自分ではいられなくなってしまう。
元彼との関係を修復できなかった悔しさも後悔も、全部マッチングアプリに乗せて。鳴り止まない通知に仮初の充実感を覚えながら、淡々とメッセージを返すのだった。