ハムストリングス肉離れのタイプ分類とグレード(損傷度)について
今回はハムストリングス肉離れのタイプ分類と損傷度分類(グレード)についてまとめてみました。
この辺は結構曖昧になってたり、理解しているようでいまいちわかっていない方もいるのではないでしょうか!
重症度の分類と損傷タイプの分類は別物になっています。
肉離れの損傷度分類といえば学校で習うのはこれですね↓
AT試験でも出題があったような気がします👀
実際のスポーツ現場では肉離れの診断が「左大腿二頭筋長頭損傷 typeⅡ-gradeⅡ」みたいな感じで表されることが多いです。
このtypeとgradeがどこの損傷でどの程度のものなのか。
この分類でおおよその競技復帰までの期間が予測できるのでそちらも解説していきます!
最後には実際のサッカーの現場で肉離れの診断が下されるまでのプロセスも話していきます!
興味ある方はぜひ!
まずは「左大腿二頭筋長頭損傷 typeⅡ-gradeⅡ」このtypeが何を表しているのか見ていきましょう。
奥脇分類
奥脇分類というのはハムストリングスの肉離れを損傷部位でタイプ分けしたものです。
どの組織に損傷が及んでいるのかで分類されておりtype-1〜3まであります。
type-Ⅰ:筋線維部(筋膜・筋間を含む)の損傷
type-Ⅱ:腱膜部の損傷
type-Ⅲ:坐骨付着部または腓骨・脛骨付着部の損傷
次に「左大腿二頭筋長頭損傷 typeⅡ-gradeⅡ」このgradeが何を表しているのか見ていきましょう。
JISS分類
JISS分類は上記の奥脇分類に加えてMRI横断像で損傷度(グレード)分類を追加したものです。
Ⅰ度(grade Ⅰ):わずかな損傷
Ⅱ度(grade Ⅱ):部分断裂
Ⅲ度(grade Ⅲ):完全断裂
とされており下記のように表記されます。
・typeⅡ-Ⅰ度(腱膜部のわずかな損傷)
・typeⅡ-Ⅱ度(腱膜部の部分断裂)
・typeⅡ-Ⅲ度(腱膜部の完全断裂)
臨床的にはtypeⅡでのグレード判定に用いられることが多いと思います。
type1-Ⅲ度損傷やtype3-Ⅰ度損傷などもハムストリングス以外の筋では発生するかもしれませんが臨床現場で遭遇したことはありません。
というわけで最初に示したこちらは↓
「左大腿二頭筋長頭損傷 typeⅡ-gradeⅡ」
「左大腿二頭筋長頭の腱膜損傷で重症度はgrade2」と言うことになります。
肉離れの分類から競技復帰時期を予測する方法
次にこの分類法からある程度競技復帰時期が予測できるのでその文献も見ていきましょう。
この表は、2001年10月〜2017年9月までに国立スポーツ科学センターで肉離れと診断された1078例について、損傷度分類と復帰までどのくらいの期間を要したのかを調査したデータです。
もちろんこの文献では年齢や性別、競技種目の構成などについての記載はないのでデータの解釈には注意が必要です。
しかし僕が実際にサッカーの現場で見てきた症例と比べても、ほぼ同じような競技復帰の期間になっています。
実際のスポーツ現場で肉離れの診断が下るまでのプロセス
では実際のスポーツ現場でどのようなプロセスで診断が下るのか解説します。
肉離れについては明らかな受傷起点があり、圧痛、ストレッチ痛、収縮時痛の3兆候が揃っていたら病院を受診しDrの診察を受けることがマストです。
グラウンドでの練習中に発生し、痛みが強くプレー継続が困難になり離脱する場合は理学所見をとった後にDrに連絡して診察してもらうことがほとんどです。
別のパターンとして多いのは、練習は最後まで参加したが練習後にメディカルルームに来て「なんかちょっとハムが、、、」というパターンです。
様々な理学所見を取った上で、どこの組織にどれくらいの損傷が疑われるのか、プレーを継続できそうなのか、このままプレーを継続するとどうなるか(リスク)などの医学的な見解を伝えます。
それを伝えた上で選手自身の感覚と自分の考えを擦り合わせていきます。
肉離れの既往がある選手では「前回と比べて痛みが少ないから肉離れしていない気がする」と言う選手がいたり「肉離れしてそうだけど今の自分の状況的に離脱はしたくない」と言う選手もいます。
そのような選手の意見も考慮しながら落とし所を考えて、最終的な意思決定をしなければいけません。
では実際に病院で診察を受けることになった場合のパターンを解説します。
選手の診察の際には必ずトレーナーが付き添います。
診察が始まるとDrがベッド上での所見(圧痛、ストレッチ痛、収縮時痛)を確認し、次にエコーを使って出血の有無や組織損傷の有無を確認します。
エコーで患部の状態を確認した後に肉離れが疑われるようであればMRIの撮影も行います。
MRIの結果をもとにtypeやgradeをDrに確認してもらい肉離れの診断が下ります。
診断が下ったら、ここからDrとトレーナーで色々な話をしていきます。
・復帰まで何週間かかるのか
・何を基準にリハビリテーションを進めていくのか
・どの試合を狙って復帰させるのか
・次回の経過観察をいつしてもらうのか
・フォローアップのMRIをどのタイミングで撮影してもらうのか
などなど考える事はたくさんあります。
実際にトレーナーの立場で考えてみてほしいのですが右大腿二頭筋長頭損傷type2-grade2で復帰の目安が4-6週だとします。
どうすれば4週で復帰できるでしょうか?
逆に何が起きたら6週の復帰になるのでしょうか?
初期の診断で4-6週の診断が下ったとして、チームにとっては4週で復帰と6週での復帰では大きな違いになります。
腱膜の修復具合や選手のコンディションの問題、初発なのか再発なのか、ポジションやその選手のチームでの立ち位置、現在のチーム状況など様々なことを考慮して復帰までのスケジュールを考えなければいけません。
チームのことを考えると4週での早期復帰がベストな選択ですが、メディカルのプロとしてチームにいる以上は医学的な所見を軽視してはいけません。
もちろん4週での復帰を狙いたい気持ちはありますが、そう上手くはいかないこともあります。
プロとして働く以上は自分の判断に責任を持たないといけません。
難しい仕事ですが、こういう細部にこだわることがプロとして大切なことだと思います。
長くなってしまいましたが最後まで読んでいただきありがとうございます!
今回の参考文献です!ぜひ全文読んでみてください!
また、日本ではこの奥脇分類やJISS分類などが使用されることが多いですが、筋損傷の分類法は他にも存在します。
こちらはイギリスの方が考案した筋損傷の分類法「British athletics muscle injury classification」です。
日本のものより細かく分類されています。
オープンアクセスの文献なのでこちらも興味ある方はぜひ読んでみてください!