NO.90 立春の日、クレーメル、イヴラギモヴァ、庄司紗矢香、そしてムターの弾くベートーヴェンを聴くこと
今日から季節は立春。
暦の上ではもう春だ。
今年は年明けに能登半島の地震があり、新しい年を迎えた気になれなかったけれど、ようやく時間が動き始めたような気がする。
そんな立春の一日、ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタを様々な演奏家で聴き続ける。
この曲には長い間名盤として名高いギドン・クレーメルとマルタ•アルゲリッチによる演奏(1984年〜1994年録音)がある。
2人の名演奏家が繰り広げる、まさに丁々発止という言葉がふさわしい演奏でまさに名演。
ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタから多くの人が思い浮かべるのはこの演奏だと思う。
ただ、テディ・パパヴラミのヴァイオリン、フランソワ=フレデリク・ギィのピアノによる演奏(2016年録音)でこの曲の「対話」の面白さを初めて知った僕には、クレーメルとアルゲリッチによる演奏はちょっと「対決」色が強く感じてしまう…
これはあくまで「今」の僕の心境からくる印象だけど…
イヴラギモヴァとセドリック•ティベルギアンによる演奏(2009年-10年ライブ録音)は、少し線の細いヴァイオリンの音色がティベルギアンのピアノとしっくりマッチして僕にはとても好ましい。
少し早めのテンポもこの演奏の爽やかさにふさわしい。
今の僕の気分にぴったりくる「対話」に溢れたとても好きな演奏だ。
庄司紗矢香とジャンルカ・カシオーリによる演奏(2009年-2014年録音)は、いかにも庄司紗矢香らしいエッジの効いた全身全力を込めたヴァイオリンが聴きもの。
僕はライブでもこの2人による演奏を聴いた事があるけど、終演後のサイン会に現れた庄司紗矢香がまるで魂が抜けた人のような姿だったのを見て、いかにこの人がステージに魂を込めているかを知り戦慄を覚えた記憶があるけれど、録音からもそれはしっかり伝わってくるよう。
ムターとランバートン•オーキスによる演奏(1998年ライブ録音)は、いかにもムターらしい濃密な演奏で、常に軽いヴィブラートがかかったムターのヴァイオリンの蠱惑的な音色はベートーヴェンのヴァイオリン•ソナタに新しい味わいを加えていて独特の魅力がある。
クラシック音楽を聴く醍醐味はやはり聴き比べにあると改めて思う春の宵だ。