弁護士業務とNLP②

表象(代表)システムについて

表象システムとは

人は、大きく、「視覚優位」「聴覚優位」「身体感覚優位」に分けられるといわれています。
たとえば、どれか高級ボールペンを購入しようとする時を思い浮かべてみてください。
「視覚優位」の人だったら、まずはボールペンの見た目を重視するでしょう。
「聴覚優位」の人だったら、ボールペンをノックした時の音を重視すると言われています。
「身体感覚優位」の人だったら、まずはボールペンを持ってみて、手触り等を重視すると思われます。
ほかにも、「身体感覚優位」の人は、遠距離恋愛が上手くいきにくいと言われています。
すなわち、「視覚優位」の人だったら、テレビ電話やZOOMで話すことによって満たされますし、「聴覚優位」の人だったら、電話で声を聴くことで満たされますが、「身体感覚優位」の人は、実際に会って抱きしめないと満たされなさを感じてしまうからだと言われています。
ちなみに、自分がどの表象システムが優位かを図るテストがあるのですが、私は、ダントツで視覚優位でした(実際に、物を購入するときは、まずデザインや見た目を重視しています。)。

言葉の使い方

視覚優位の人は、「見える」「見通しがいい」「明るい・暗い」「はっきりしている」といった言葉を好みます。
聴覚優位の人は、「聞こえる」「考える」「リズムが合う」「耳ざわりがいい」「耳を貸す」「調和する」といった言葉を好みます。
身体感覚優位の人は、「感じる」「触れる」「重い感じ」「おいしい話だ」といった言葉を好みます。

手の動き

視覚優位の人は、自分が頭で描いているイメージを、手で表現しようとします。
聴覚優位の人は、手はほとんど使いませんが、思考しているときに、手が鼻や口元に行く傾向があります。
身体感覚優位の人は、手を使って自分の身体の感覚を表現しようとする癖があります。

企業の戦略

大手企業は、セールスをするときに、これらの表象システムを意識していることがあります。
たとえば、視覚優位の人に向けて、ロゴやパッケージを工夫したり、聴覚優位の人に向けて、車のドアの閉まる音や、カメラのシャッター音をCMで強調したり、身体感覚優位の人に向けてはリモコンを手に取ってもらったりしていることが挙げられます。

コミュニケーションへの影響

これらの表象システムは、コミュニケーションにも影響をもたらします。たとえば、「会社のビジョンが見えない」という部下がいたとします。「見えない」という言葉を使っていることから、この部下は「視覚優位」であると考えられます。
そのような部下に対しては、たとえば、「実感できるだろう」「聞こえてくるだろう」といった言葉ではなく、「どうすれば、見えてくるかな?」「実際に、ホワイトボードに書いてみよう」等、視覚優位の人に適した言葉を使ってあげると、質の良いコミュニケーションにつながります。

弁護士業務への活かし方

法律相談のとき

一応、相手が「視覚優位」か「聴覚優位」か「身体感覚優位」かを見分けるポイントはありますが、私の中では絶対的なものではないと思いますし、初対面の人と、そこまで読み取るのはなかなか難しいことも多いです。
そこで、私は、相手がどの優位タイプであっても、対応できるようにしています。
たとえば、離婚の相談を例に挙げます。
視覚優位の人だったら、離婚するまでの手続の流れのような表を見せながら説明すると、安心してくれるでしょう。
聴覚優位の人だったら、サービスについての評判を話すほか、データや特徴に関すること、実際に依頼した人の声や、調停委員、裁判官から実際に言われたことを話すことで、働きかけます。
身体感覚優位の人は、弁護士業務では実際に手に取ってもらえるような商品がないので、中々難しいですが、相談者の方は悩みを抱えていて、特に身体感覚優位の人は、実際に心の重たさを感じていることが多いので、「どのように感じていますか」「重たい感じですか」といった言葉を使うようにしています。
こういったことを意識することで、相談者の方の満足度の高い法律相談が可能になると思います。

退職勧奨のとき

私が、この表象システムを最もうまく用いているのは、クライアント企業が従業員に対し、退職勧奨を行うときだと思っています。
表象システムを用いることによって、退職勧奨の対象となる従業員が、どの優位タイプであっても、相手の内層心理に働きかけるような退職勧奨を行うことが可能となります。実際に、どのような退職勧奨の方法を取っているのかは、企業秘密になりますが、昨年度(令和4年)は、10件の退職勧奨について、アドバイス、準備を担当させていただきましたが、うち9件は、従業員が、会社との円満退社に至っています(残りの1件も、最終的には退職に至りました。)。
解雇規制の厳しい日本において、従業員に対する退職勧奨は重要な手法ですが、上記のように、心理学を組み合わせることで、退職勧奨の成功確率を上げることができます。