スーパーで値引きシールを待つ客って卑しくない?
ガールズちゃんねるに「値引きシールが貼られるのを待つなんて卑しくないですか?」と現役スーパー勤務者からの投稿があり、SNSに波及して話題を呼んでいる。
「日本は貧しくなった」「お金がないから値引き後でないと買えない」という反対する意見もあれば、「フードロスを減らせるからあり」という声もある。
自分は子供を連れて毎日スーパーで買い物をして料理をする立場なので、シール貼り待ちの光景を毎日見ている。時にはフライング気味に「これに貼ってちょうだい」と店員さんにお願いをするお年寄りを見ることもある。
今回はあまり語られない、スーパー経営者や市区町村の視点も取り入れた経済学を論じてみたい。
多様な消費者の価値観
まず、理解するべきはスーパーで買い物をする消費者はあまりに多様な価値観を持っているという事実である。
おつとめ品しか買わない人もいるし、おつとめ品自体を絶対買わない筆者の妻のような人もいる。また、野菜や魚など鮮度が重要な食品は絶対買わないが、いつも買っているお菓子に値引きシールが貼ってあればそちらを買うこともある筆者のような「ハイブリッド型」もいる。
消費者の多様な価値観の受け皿になってくれているのが値引きシールなのだ。
スーパー側の経済学
投稿主はスーパーで働く店員さんの立場で「卑しくないか?」と疑問を投げかけているが、従業員ではなく経営者の視点に立つと違った世界が見えてくる。
スーパーの経営者のミッションは当然ながら「利益の最大化」である。できるだけ定価で売り切りたい一方で、売れ残りで廃棄することはすなわち敗北を意味する。廃棄するくらいなら割引してでも売りきった方が良い。仮に値引きで利益が極小化しても、商品在庫となって保管場所や保存管理のコストをかけるよりはるかにマシである。もしも廃棄となれば事業系一般廃棄物となってスーパーの事業者がコスト負担をすることになるからだ。いや、それだけでは終わらない。ゴミは事業者のコスト負担に留まらず、市区町村の税金も使って廃棄処分されている。つまり、フードロスが増えるほど日本人全員でゴミの廃棄コストを負担することになってしまうのだ。
このような事情があるため、値引きシールを貼ってでも在庫をなくす努力へ力学が働く。いや、フードロスを減らすことはムダな税金を節約することにもなるから値引きシールを貼って廃棄を減らしてくれるのはむしろ大変ありがたいと思うべきであろう。
値引きシールはフードロスを減らす
農林水産省によると、2020年度の日本の年間食品ロス量は522万トンで、東京ドーム5杯分くらい。日本人1人が毎日お茶碗1杯分の食事を捨てている計算になる。日本は世界的にフードロスは比較的高い水準にあり、SDGsの観点からもフードロスを減らす活動には価値がある。
そう考えると値引きシールを貼るのを待ってくれるお客さんは「卑しい。貧乏くさい」のではなく、時間を消費してフードロスを引き受けているありがたい存在といえる。社会全体でみても、スーパーの事業者でみてもメリットしかない。逆に値引きシールを完全にやめてしまえば、廃棄される食料は増える上、スーパー事業者は売り切れる分量しか仕入れないのでスーパーの棚は売り切れが続出し、廃棄コストは税金で跳ね返ってくる。お金に余裕がなく刺し身や肉などをおつとめ品でしか買えない人の食卓はさらに貧しくなる。加えて、投稿主のスーパーの従業員もデメリットが生じる。スーパーの利益が圧迫され、シールを貼るマンパワーも削減されるためだ。
結論的にお客さん、経営者、労働者、市区町村全体で考えると値引きシールは卑しいどころか必要な存在と言えるのではないだろうか。