第1回カテゴリ短歌祭 ネタ短歌賞 結果発表
第1回カテゴリ短歌祭、ネタ短歌賞にご応募いただいた皆さま、ありがとうございました。選者をさせていただきました、くろだたけしです。
ネタ短歌賞には128首の応募があり、この中から、特選1首、入選2首、佳作5首を選びました。結果を発表いたします。
特選、1首
虫かごでツケマを飼えばことのほか寿命が長く六年生きた
(よしなに)
ツケマを飼うとはどういうことなのかはわからないのですが、「六年生きた」と言われると、それはツケマの生を間近で見てきた六年でありその最後にはツケマの死があったわけで、その年月を厳粛なものとして受け取らざるを得ないような気がしてきます。おかしな話のはずなのに、妙に説得力があるすぐれた作品だと思いました。でもやっぱりツケマを飼うとはどういうことなのかはわからないのですが。
入選、2首
カーナビに「自動車解体工場」と言った五秒後「いやです」の声
(かんじょう)
決められた言葉を話すだけだったカーナビに意識が生まれたのか、あるいは車自体に意識が生まれてカーナビを操りだしたのか。いずれにしろ、見えないところで大きな変化があったことが暗示されている「五秒後」がとても効果的だと思いました。
かんにんなおっちゃんセレブって嘘やねんホンマはスーパーモデルでもないねん
(汐留ライス)
関西弁の話し言葉が、57577からははずれているのに短歌のリズムには乗れているように感じました。「セレブ」のあとさらに「スーパーモデル」と畳み掛けるところも好きでした。
佳作、5首
乳首から出るWi-Fiを3ヶ月溜めて今こそ撃てチクビーム
(音忘信)
とても馬鹿馬鹿しいことを言っているのですが、それだけに「今こそ撃て」の生真面目で信念に満ちた響きがたまりませんでした。
「決して覗きませんように」と鶴が言い「覗いてみせましょう」と一休
(音忘信)
賢くてかわいらしいはずの一休さんが、空気の読めない面倒な子どもに見えてしまうところが好きでした。
期限切れの飲むヨーグルトがいつまでもトラップとしてある冷蔵庫
(宇井モナミ)
会社などの共用の冷蔵庫で、語り手はその中身についてあまり口を出せない立場なのでしょうか。問題があることに気づきながら一歩引いて見ているだけなのが、ちょうどいい怖さになっていると思いました。
ワイシャツのポケットに棲む妖精をホコリと呼んで飼っている嫁
(よしなに)
「ポケットに棲む妖精」という可愛らしいファンタジーの世界の存在を、ポケットの中に存在するという共通点があるとはいえ「ホコリ」と名付けるのはすごい発想だと思いました。そんな嫁を見ている、おそらく夫である語り手の気持ちが何も語られていないところも好きでした。
三回も唱えるルールを決められて、あ、しか言われない流れ星
(鈴木ベルキ)
流れ星の立場になって不本意な気持ちを感じ取りながら、それを直接ではなく、「決められて」「あ、しか言われない」と遠回しな言い方で表現しているところが、熱すぎず冷たすぎないちょうどいい温度になっていると思いました。
結果発表は以上です。
ネタ短歌賞は「笑い、ユーモア」の短歌ということでしたが、選考ではあらかじめ基準やルールは決めずに、単純に「おもしろい」と感じるものがあるかどうかで選びました。そのため「笑いの短歌、笑える短歌」とは、ちょっと方向性の違う選になったようにも思いますが、私なりに真面目に取り組んだ結果ですのでご容赦ください。とはいえ、「思ってたのと違う!」と思われたかたがもしいらっしゃいましたら、ごめんなさい。
今回の結果について、受賞されたかたは喜んでいただければ幸いです。受賞されなかったかたは、あまり気にしないでこれからも短歌を続けていただければと思います。最後になりましたが、ご応募いただいた皆さまのおかげで貴重な経験をすることができました。あらためてお礼を申し上げます、ありがとうございました。
くろだたけし
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