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子の刻参上! 一.あけがらす(二十一)

益田は堰を切ったような次郎吉の男泣きに、神妙な表情で座していた。
「ほら、次郎吉どん」おろくがどこからか手ぬぐいをもってきて、腕袖をぐしょぐしょにしている次郎吉のこぶし近くに差し出した。市川の「かまわぬ」の柄。

「奉公先で勤まらねえばかりか、ばくちにふけっちまって、元手がねえからついつい、芝居の稲葉小僧のまねごと……お武家屋敷の奥向きにゃあ、小箪笥なんぞをつくりつけに上がるんでございやす。そいで……」

次郎吉、かまわぬの手ぬぐいを握りしめて、どうにもおさまらぬばくち狂いと盗みの癖を持て余す我が身をかかえて、どうと泣き崩れた。
深い深い途方に暮れ方をまのあたりにして、益田は狐が言った「治らぬ。アヘンの沼のごときところから、引きずり出すには、薬を使い祈祷をまぜ、およそ根気の尽きるようなおおごとになる」との言葉を、黙ってかみしめていた。

「さもありなん。自分ひとりのやりようでなんとか止むならば、それは狂いとも癖とも言わぬわな」
およそ根気の尽きるようなおおごと、を、次郎吉の父親も持て余して、そうして親族の縁生まれ育ちの場所の絆から切り離したのだ。

興行が当たり金が巻き、地代が滞り食い詰め、上を下への大騒ぎをしながら共に苦楽をしのいできた中村座は、そうでなくっても厄介ごとを売るほど抱えている。

盗人鼠小僧の連座縁座とあっては、中村座ぜんたいが、興行主看板役者の遠島おとりつぶしなども頭をかすめたに違いない。山村座が、江島生島事件で役者の遠島と一座のお取りつぶしに遭うたが如く。


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高橋照美
「最大値の2割」ぐらいで構わないから、ご機嫌でいたい。いろいろあって、いろいろ重なって、とてもご機嫌でいられない時の「逃げ場」であってほしい。そういう書き物を書けたら幸せです。ありがとう!