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うわっ、広がる驚愕と怒号。ーー秋の月、風の夜(59)

試着室から深緑と生成りのコーディネートで四郎が出てきて、高橋は拍手をした。「おおー、似合うじゃん」
そして、少しだけボタンを外したり、襟の立ちかたを変えたりして、「こっちのパンツに替えてみて」と、四郎に伝える。

また着替えに入った四郎を待って、奈々瀬と高橋は、あれこれしゃべっていた。

「着方が、まじめなんだよな」
「そこがいいんですけどね。高橋さん、一人っ子でしたっけ。四郎のこと、弟みたい?」
「弟がいたら、こんなにかわいがってないと思うなー。もっと何か取り合ったり、こづいたりしてそうだ。
なんというか、手のかけがいがあるんだよね……四郎は。教えたら教えただけ、対等な話し相手になろうと努力してくれるというか、吸収が半端なくいいというか」

四郎が出てきた。生成りをカーキに変えて、黄緑をさし色にした。
「あっ、やっぱりこっちのがいい。気に入った?」
「あ、ああええと、着とって落ち着かんけど、慣れると思う」
「よしまず一セットね」

「いや、二着も三着もは……」
「四郎ね、こういうのは数こなさなきゃ、自分でセンスのいい服選べるようになんないから。ヒット作を叩き出すセンスを培ってるんだと思って、僕が選んだのぜんぶ、試着してみてくれるかな。既に、めんどくさいんだろうとは思うけど」

「……はい」
おとなしく、四郎はひっこんだ。

「仕事と関係あるんですか?」
「あるんじゃないかなあ、僕も部外者だからわかんないけど。いろんな人が好きなもの、求めるものの、さらに斜め上を提供するには、まず自分の好きなもの、求めるものから。”ここまでやりますか”ってのを、とことん」
「たのしいーー。あっ、雅峰さんの絵も?」
「僕も試行錯誤だ。きっと恋愛と同じなんだよ。僕は恋がへたくそだ」

二着目のコーディネートで、四郎が出てきた。高橋はうれしそうにした。「ああ、雰囲気かわるね。四郎どう?」
「おちつかん」
高橋は「おちつかなくてすまない」と言った。
そして腕組みをした。「そりゃ、シャツの裾出したほうが、いいな。裾出して、パンツのポケットに手をつっこんでみてよ」

かくし(ポケット)に手だとーー!?
四郎は自分の中に、驚愕と怒号が広がる様子に、ただ耐えた。


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「最大値の2割」ぐらいで構わないから、ご機嫌でいたい。いろいろあって、いろいろ重なって、とてもご機嫌でいられない時の「逃げ場」であってほしい。そういう書き物を書けたら幸せです。ありがとう!