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財産権制約の処理

権利の保障範囲


 29条は私有財産制度だけでなく、「社会経済活動の基礎をなす国民の個々の財産権」(森林法共有事件(百撰1ー96))を保障する。

 学説は既得権、私有財産制の核心を29条1項の保障内容としてきていた。森林法共有事件判決はこれに単独所有を追加した。

 29条の制約の憲法適合性判断において、侵害されている権利が29条1項で保障されているのかは難しい問題である。裁判所は、「財産権」に対する公共の福祉による制約、もしくは財産権そのものを制約していないという、両方の意味で解釈できるような言い回しをして判断を導いており(奈良県ため池条例事件(百撰1ー98))、財産権に係る事案の先例的役割を担う森林法共有事件判決および証券取引法事件判決(百撰1-97))は、公共の福祉に適合ないし不適合であることが「明らか」であるとして、保障範囲に関する議論を事実上棚上げして、違憲ないし合憲の判断をしている。
 受忍限度論への言及が奈良県ため池条例事件で見られるが、判決の文脈から思うに、「財産上の権利を有する者は何人も、公共の福祉のため、当然これを受忍しなければならない責務を負うというべき」であるから、財産権には受忍限度の制約が内在しており、この限度での制約は、財産権を制約していないと言えるのではないか。

 「財産権」に対する制約の存否について、高辻論文が参考になる。論稿は、財産権と制約の関係を、「財産の内容を定める」ものと、「財産権の行使および利用権」を制約するもののように、内容規制と内容中立規制的な観点から分類し、前者については、財産権の保障を前提にその制約を議論できると指摘している。このように考えると、森林法共有事件判決、証券取引法事件判決および奈良県ため池条例事件はどれも後者の制約にあたり、合憲判断はそもそも財産権の制約がなかったものとして整理される。

制約の根拠


 「公共の福祉(29条2項)」の適合性が審査されていることから、判例が制約の根拠として公共の福祉を取っ掛かりとしていることはわかりやすいが、その内実は様々である。

規範定立


 当初、22条1項の制約審査で用いられる規制目的二分論が29条2項の適合性判断でも用いられるようであった(森林法共有事件判決)。そうでありながらも、目的・手段審査においては総合判断の姿勢を示し、規制の目的及び必要性、権利の性質及び内容、規制の態様及び程度を考慮要素としている。
 しかし、続く証券取引法事件判決では、森林法共有事件判決中の積極的目的および消極的目的という文言が注意深く削り取られており(松本)、財産権分野では上記の考慮要素の等価性を示したと解せなくない。

 結局のところ、財産権分野では、立法府の判断を尊重して「明らか」に29条2項に適合する、又は「明らか」に適合しないとして判断を決定しており、論証の核は制約の正当化の部分にあると言えるのではないだろうか。


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