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一橋ロー 憲法 2024 解答例

小問1
1 Xは、処分①の根拠となっている新通知と、Yのした処分②が、憲法(以下、略。)21条1項で保障された権利を違法に侵害し違憲であると主張できる。
2 新通知
⑴ 21条1項は表現の自由を保障するが、政治上の目的とする一切の表現行為は、政治活動の自由として、21条1項で保障される権利の一内容を成すと解される。
 この権利は、民主主義的国家において必要不可欠の要素であり、国家作用の正当性を支えるのだから、全ての国民に保障されるべきものである。また、民主主義的な国家運営は選挙制度を基礎としていることから、選挙権を有する者については、特に重要な意味を持つと考えられる。
⑵ 新通知は、選挙権を有する18歳以上の高校生の政治活動等を、学内では一律に全面的に禁止し、学外でもこれを制限する。
 新通知は、文部科学省の発する行政基準であるが、これが関連行政機関を拘束し、これによって全国の高校生の政治活動等が制限されるのだから、法規命令として法規範性を有すると解せる。法規命令は、法律による行政の原理から法律の目的・趣旨に適合しなくてはならない。この点、改正公職選挙法等が、選挙権者を拡大し広く国民の意思を国政に反映しようとした目的を鑑みれば、新たに選挙権を付与された高校生の政治活動等を禁止ないし制約するのは、改正法等の目的・趣旨に適合しないと考えられる。
⑶ したがって、新通知は、Xの21条1項で保障された権利を違法に侵害しており違憲である。
3 処分②
⑴ 学校長の懲戒権は、これが教育現場の専門的な判断を尊重することが行使の適切性を確保できるとの考えから、広く裁量権を認められていると考えられる。
 しかし、学校長の広範な裁量権も、法律による行政の原理から、委任の趣旨に適合して行使されなくてはならず、これを逸脱する場合には違法の可能性が生ずる。
⑵ 処分②は、新通知及びこれを具体化したA教育委員会の文書に基づき成されたものであるが、これらの基準は、学業を行う場としての学校施設の使用・管理権と、学生の政治活動の自由を調整するための基準であって、これに基づいて学校長が生徒に懲戒権を行使することまでは予定していないと解せる。
⑶ したがって、処分②は、学校長の新通知等によって与えられた裁量権を逸脱する違法なものであって違憲である。
小問2
1 Yの主張
⑴ 21条1項で保障されている政治活動の自由は、これが外部的な行為を伴い社会的性質を有する場合には、他の自由権との調整原理が働き、必要最小限度の制約を受けることになると考えるべきである。
⑵ そもそも、憲法の人権規定は、個人の尊厳を基礎に置いた価値秩序の体系である。したがって、個人が人権規定にある権利を行使する場合であっても、これによって自身が尊重されないこととなる場合には、これを法律によって制約することも認めることができると解せる。
 選挙権を有する高校生が政治活動を行うことは、21条1項で保障された権利の行使として尊重されるべきである。一方で、21条1項の権利行使には、多様な情報の摂取や、社会に向けた情報発信など、高度な判断能力を求められることとなるから、権利行使に実効性をもたせるために必要かつ合理的な範囲でパターナリスティックに制約することも認められる。
2 検討
⑴ 新通知
ア 選挙権を有する高校生の政治活動の自由は、民主主義的国家運営において必要不可欠の要素を成すものである。一方で、高等学校において教育という目的を達成するということは、不特定多数人に関わる重要な利益である。そして、教育現場において、どのような方策によって右の利益を確保するかは、実際に教育に携わる学校長の専門的判断に委ねるのが適切であると考えられる。したがって、高校生の政治活動の自由を制約する法規命令は、① 目的が正当なものであって、② 手段が目的を達するために合理性を認められることが必要である。
イ 新通知は、従前高校生の政治活動を全面的に禁止していた旧通知を改め、高等学校の設置目的との利益調整のもと、限定的に高校生の政治活動の自由を認めることを目的としており、その目的は法改正等の経緯を踏まえても正当なものである。
ウ そして、教育を目的とする学校内での政治活動を一律に禁止し、学外における政治活動については、これが社会的に相当性を欠くと認められるものにつき届出制とすることには合理性が認められる。また、一般に許可制と異なり、政治活動を届出制とすることは制約の態様として穏当であり相当である。
エ 以上より、新通知は、法改正に対応するための正当な目的のために、合理的な手段であると認められるから法令違憲の問題とならない。
⑵ 処分②
ア 学校長には、学校が教育目的を達成するために必要な方策を採る広範な裁量権を認められており、この中には、施設管理権や人事権、及び生徒の懲戒権も含まれていると解される。
 したがって、新通知が学校の管理権と自由権の調整を目的としているのだから、新通知に基づき管理権の一つとして懲戒権を発動することも、根拠規範たる新通知は予定していると解するべきである。
イ Yは、Xが届出義務に違反したこと等の複数の違反行為を確認し、Xの担任を通じた素行調査等を踏まえ処分②を行ったことは裁量権の範囲内と言える。また、処分の内容も停学処分1週間という軽微なもので、Xにことさらに過酷な処分を課したとも言えず相当である。
ウ 以上より、Yのした処分②は適法である。

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