
一橋ロー 憲法 2019 解答例
小問1
1 Xらは、パレード開催のためにした市庁舎前広場利用申請に対する不許可処分は、集会、結社の自由を保障した憲法21条1項に反した違法な処分で違憲であると主張すると考えられる。
2 Xらの計画した表現活動、すなわち、Y市のする軍事的色彩の強い催しものに反対する意見を有する者たちで特定の場所に会する行為は、集会、結社の自由を保障する21条1項で保障されている。
そして、集会および結社という表現手段は、少数者が意見を対外的に表明する手段として有効なものであり、自己統治の価値を実現する上で重要な手段であることから、21条1項によって強く保障されていると解される。
3 上記のような性質をもつ集会、結社の自由は原則として規制されるべきではなく、これに対する規制措置は、やむをえない公益上の目的のために必要最小限度の手段でされる場合に限り許容されると考えるべきである。
4⑴ 「市民の会」が憲法記念日に開催する「憲法を護る市民の集い」の開催に際して敷地利用を許可していたY市は、本件「軍事パレード反対」をスローガンに掲げる集会の開催に際して敷地利用を不許可とした。これは、Y市が、集会の内容に着目して、その内容が「政治的」な「賛否を表明すること」であることを理由に不許可としたもので、表現の内容規制を目的としたものである。したがって、Y市の施設管理権に基づく右の規制は、やむをえない公益上の目的にでたものとまでは言えない。
⑵ Y市は、市庁舎前広場の一般利用について許可制を採っており、担当者がY市庁舎前広場管理要綱(以下、「要項」)に基づいて許否の判断をしている。これは、申請者らの表現行為に対する事前の規制にあたる。
表現行為に対する事前規制は原則として認められるべきではなく、許可制が届出制と同視できるまでに明確な基準によって運用されている場合に限り許容される。前年の集会の許可理由は、集会の内容が憲法擁護という公務員の地位および職務の性質に親和的であったことであり、本件の集会の不許可理由は、前年の集会で示威行為が行われたことであるというところ、前者が要綱で禁止されている「政治的行為」に該当せず、後者が該当するという運用は明確な基準に基づく運用とは言えない。
したがって、規制手段としての最小限度性も認められない。
5 よって、Y市のした不許可処分は21条1項に反して違憲である。
小問2
第1 Y市の反論
1 Y市は、本件不許可処分は21条1項に適合したものであると反論すると考えられる。
2⑴ 集会の自由が21条1項で保障されているとしても、これが社会的な外部行為を伴うことから、他の自由権や公共の福祉との関係で制約の可能性を内在している。
⑵ そもそも、市庁舎の敷地内は、市が自治体としての事務を処理するために供される公用物なのだから、これを国民の利用に供する法的義務はなく、敷地利用の許否についてY市の広範な裁量が認められていると解される。
3 であるなら、Y市の敷地拒否処分は、これが裁量権の範囲を逸脱し、又は濫用と認められない限り適法なものである。
4⑴ Y市は、Xらが前年に開催した憲法擁護を趣旨とする集会を「政治的行為」に該当しないとして敷地利用を許可したが、その集会の後半で政治家への批判を内容とするシュプレヒコールが行われた。また、本件集会は、Y市のする軍事パレードに対する反対の意見表明を趣旨とする集会である。したがって、Y市の担当者は、本件集会が軍事関係という高度な政治的内容を趣旨とする点、Xらは純粋な法律問題として消化しうる憲法問題も政治的問題として議論を加熱させうる点などを踏まえ、本件集会を政治的行為に該当すると判断したと考えられる。これらのY市担当者の事実認識および要綱の適用に合理性は認められる。
⑵ また、本件集会が「政治的行為」にあたるとして、敷地利用を不許可としたことについても合理性を欠くとまでは言えず、本件拒否処分が裁量権の逸脱又は濫用にあたると認めることはできない。
5 したがって、Y市のした処分は適法であって、憲法21条1項に反し違憲とは言えない。
第2 検討
1 集会の自由は、これが少数者の意見を外部に表明する有効な手段であることで議会制民主主義の基礎となることから、公権力による規制が原則として許されないと解するべきである。
本件集会が、市の軍事政策に関する政治的集会であったとしても、上記と結論を異にするわけではなく、むしろ、表現の自由の価値に徴すれば、このような目的の集会こそ21条1項で保護されるべきものであると解せる。
2⑴ もっとも、本件集会が21条1項で保障されるとしても、権利の性質上、一定の制約を内在していると考えるべきである。
Xらは、本件集会の場所としてY市庁舎前広場を選択しているが、市庁舎前広場は市民公園に隣接し人が多数行き来する場所であり、同時にY市の市庁舎に隣接する公共物としての場所でもある。したがって、当該場所を往来する人々との利益調整や、Y市の管理権との調整が必要となる。
⑵ 公共物の管理者は、これが公共の福祉財産としての性質を有する場合には、管理権の行使について完全に自由な裁量を有すると解するべきではなく、① その敷地の設置目的と、② 公用物の利用を許可することで設置目的を達成するに支障を来たす態様、程度に基づいて、管理の対象となる施設の一般利用の許否を決定するべきである。
この点、Y市庁舎前広場が公共福祉財産としての性質を有しているかが問題となる。Y市は、当該広場が軍港および市民公園に隣接しており人の往来が盛んであることから、観光地および市民の憩いの場としての物的設備を施している。このような場所は、単に地方公共団体の事務に供される公共物として捉えるのは適切ではなく、公共福祉財産として市民の一般利用により開かれた場所として捉えるのが適切である。
であるなら、Y市は上記の①ないし②に基づく正当な理由のない限り、当該広場の利用を拒否するべきではないと考えられる(地方自治法244条2項)。
2 以上を踏まえて、Xらの集会の自由を規制する処分は、① 処分の目的、② 処分により制約される権利の性質および内容、③ 処分による制約の具体的態様、程度等を総合的に考慮して、処分により得られる利益が、失われる利益に優越する場合に限り許容されると解するべきである。
3⑴ 本件不許可処分は、当該広場の利用目的を事前に審査して、その利用目的が要綱の欠格事由に該当する場合に利用拒否処分をすることで、もって住民の福祉を増進する目的であると考えられる。このような目的は、地方自治の本旨(92条)に照らし、十分に重要な利益であるどころか憲法の要請でもある。
⑵ 本件広場の利用不許可処分は、当該施設の利用を一切禁止するもので、表現の自由に対する事前の規制として、その制約の態様は厳しいものである。
しかしながら、本件集会は、当該広場が観光施設や市民の憩いの場としての実態を有していたところ、数百名規模の集会を休日である日曜日に開催しようとするものであって、今までの活動実態から、その程度もシュプレヒコールを伴う物々しいものとなることが合理的に推測できるものである。したがって、本件場所の設置目的や利用実態、および他の利用者との関係を総合的に考慮して、必要かつ合理的な制約を受けるのはやむをえないと解するべきである。
⑶ 本件不許可処分によって失われる利益は、活動実態から制約の必要性を内在するXらの集会の自由であるが、これによって得られる利益は、一般の利用者の便というY市住民共通の利益、及び本件広場を適正に維持管理するY市の財産権としての利益である。
4 よって、本件処分は目的として十分に重要なものであって、Xらの集会の自由を制約するが、より大きな利益である住民らの公共の利益及び地方公共団体の財産権の保護に資するものであるから適法であり、憲法21条1項に適合し合憲である。