【コラム】『勝者のメンタリティをもたらした史上最高の闘将』~個人的な2022年のMVP~

史上最高の闘将は誰かと聞かれたら、間違いなくヨルディ・バイスの名前を挙げる。いや、即答するだろう。

“昇格請負人”として今季に京都から加入したオランダ人DFは、チームの精神的支柱として、絶対的な存在として君臨した。CBでコンビを組む柳育崇と必ず強烈な抱擁を交わして試合に臨む。キックオフの笛が鳴ると、試合前から燃やしていた闘志を全面に出し、強烈な発信力で意思統一を促して、若手の多いチームの方向性がブレないように舵を握った。あらためて、存在感の大きさを思い知ったのは、彼が不在だった第24節・熊本戦(●0-2)。組織としてのまとまりや精彩を欠いたチームを見て、後方でどっしりと構える背番号23の影響力を強く感じた。

バイスは背中でもチームを引っ張る選手だ。8月31日に行われた再開試合の第8節・山形戦(〇0-2)では、準備してきた間接FKをしっかりと決めて、勝点3を取り戻す勝利に大きく貢献した。第37節・長崎戦(〇3‐0)では、出色のパフォーマンスを発揮する。3日前に徳島に敗れて迎えた一戦は、自動昇格の望みをつなげるために勝利が絶対に必要な試合だった。古巣対戦でもあった試合でバイスはPKを沈めて先制点を奪うと、エンブレムを何度も強く叩きながら雄叫びを上げた。守備では研ぎ澄まされた危機察知能力による的確なカバーリングとクリアで完封勝利の立役者となった。

攻守の要だったことにも触れないわけにはいかない。

39試合に出場して7ゴール3アシストを記録。10得点がCBから生み出している事実が何よりの証拠ではあるが、それだけではない。足下の技術に絶対的な自信をもち、ビルドアップの中心を担った。チームとして後方からパスをつなぐことに重きを置くスタイルではなかったが、相手のプレスを受けても全く慌てない。冷静沈着なバイスによる正確な後方からの配球があったからこそ、主体的に相手コートに入っていくことができた一面もある。また、左右両足から繰り出されるロングボールの精度は圧巻の一言。左CBの位置から右サイドの高い位置を取る河野諒祐に届ける「カットボール」(相手のオーガナイズした守備を斜めに切り裂くパス)は貴重な戦術の1つだった。

守備では事前に見つけた危険なスペースを素早く埋める力、ピンチの芽を摘む力を発揮し、攻め込まれる展開でも耐える守備の構築に貢献した。特にクロス対応が素晴らしく、身体を投げ出してギリギリで弾き出すバイスのクリアに何回助けられたことか。リーグ終盤は失点が重なり、最終的にはリーグで5番目に少ない42失点になった。しかし、1試合1失点以下を下回るほどの堅守を誇る守備の中心にいた。

今季の岡山はリバウンドメンタリティを発揮して勝利した試合が少なくない。負けても立ち上がり、さらに前に進んでいく。例年には見られなかった力強さが確実にあった。それをもたらしたのは勝者のメンタリティであり、それはバイスが持ってきたもの。彼がチームに植え付けたメンタリティは、サポーターの心も巻き込んだ。そしてJ1昇格へのチャレンジを続けるクラブのDNAになっていく。

「われわれはファジアーノ岡山なので、絶対にあきらめることはない」

ヨルディ・バイス
1988年12月28日生まれ。オランダ出身。186cm86kg。オランダで9年間プレーした後、ルーマニア、オーストラリアを経て、18年に長崎に加入して活躍の舞台をJリーグに移す。その後、徳島、京都を渡り歩いて、22年に完全移籍で岡山に加入。J1通算16試合出場1得点。J2通算156試合出場21得点。今季は39試合出場7得点を記録。

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