叙情的に日記を書いてみんとす
窓を閉めて寝たはずなのに、朝は冬の空が嘲笑うかのように冷たくなる。
これからは朝起きたらまず靴下を取り出す生活が続くのだろうな、なんてことを考える。靴下を履くと、身体と同時に少し心も温まる。
そうはいっても冷えていると身体は動かないもの。ミノムシのように布団にくるまって動き出せない。これからの季節が少し心配になる。
大学とバイトがあることを思い出し、薪に火をつけるように身体を起こす。
コーヒーを飲んで支度を済ませる。気付けば授業開始が迫っているが、気付かないふりを続けた。大学生になってからの悪い癖は簡単には直らない。
自宅で授業開始時刻を迎えるのにはすっかり慣れ、今年初めてのパーカーに袖を通す。
荷物これだけで良かったっけな、なんてことを考え急いで家を出る。
遅刻ではあるが行かないよりマシだ。
パーカーはまだ少し早かったのか、自転車を漕ぐと身体はうっすらと汗ばむ。夏の空が遠くでしたり顔をしていた。
少し水を吹きかければすぐにでも雨が落ちてきそうな空はその雲の上にどんな表情を隠しているのだろう。
大学が見えて来たところで不意に机の上に置かれたままのパソコンを思い出す。
大学生にとってパソコンは水と酸素の次に必要なもの。慌ててUターンをして取りに帰る。
金木犀の香りもしない秋の道を、荒んだ心で引き返す。遠くに見えた夏の空に舌打ちをしたくなるような気分。
家に着くと座り込んでしまった。どうやら電池切れのようだ。15分ほど充電をして、再び家を出る。無駄な時間を過ごしてしまったと思いつつ、大学生の時間の大半は無駄なんだと開き直る。
ほんのお気持ち程度の授業を受けて、次の教室に向かう。同じ授業の友達の姿はそこにはなく、教室に吹き込んだ風は寂しさを滲ませる。
授業内容は難しくて、何一つ理解できなかった。しかし、周りの学生が理解しているとも到底思えなかった。
教室に吹き込む風は今度は心を荒びさせた。そのおどろおどろしい冷たさは、自分だけが分かっていないかもしれないのかもしれないという錯覚に陥らせるには十分だった。漠然とした不安が押し寄せる。不安は漠然としていればしているほどその威力を増すのだ。
少し授業が早く終わったので購買に向かう。地下一階のそこに入ると、なんと制服の集団に占領されているではないか。
フロアを埋め尽くすほどの高校生の群れに、在学生が気圧されている。思えば今日は絶えず修学旅行生に遭遇している。
そんな人生に何度もない貴重な時間を大学の購買なんかで消費していいものなのか。自分が高校生の立場に立って考えてみるがやはり理解ができない。
若いエネルギーから目を背けるようにして買い物を済ませバイトに向かう。
昼頃少し顔を見せていた夏の気配はすっかり遠くへ行ってしまい、不気味な冷たさが街を覆っていた。滴がこぼれ落ちそうな空はより薄暗くなり、学生で溢れるキャンパスもどこか年老いたようだ。
そんな年老いたキャンパスをそそくさと離れて家とは逆方向に自転車を走らせた。人の多さに項垂れつつも店舗にたどり着く。
幸いなことにオープン10分前で1組待ちという有難い展開。
オープンしてからも客足は少なく、ついに恋しく思い続けてきた閑散期が訪れたことを知る。半年間の片思いがようやく実ったようだ。春に蒔いた種がようやく実を結んだ。
おなかいっぱいご飯を食べ、偉い雰囲気のお客様に接客を褒められ、気分はすっかり良くなった。
雨予報だった天気も持ちこたえたようで、勝手に仲間意識を抱いてしまう。
星占いが最下位のような日だったが、最下位ではなかったのはこういう理由なんだろう。
好きな音楽に包まれ、不気味さの消えた冷たさの中、風をきって家路につく。
早いもので1日が終わった。星占いは10位を告げていた。踏ん張ろう。