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映画「すずめの戸締まり」を見てみた

元旦からアマプラ見放題に追加されていたので見てみた。
言語化の練習ということで、人様の感想を見る前に自分の感想を書いてみようと思う。
映像が素晴らしいとかそういう話はほとんどしないと思います。いうまでもなく全体的に美しいです。

まず、私は新海誠監督の作品はいくつか見ているけれど正直「絵が綺麗だな~」というゆるふわ感想しか持ったことがない。
あれだけヒットした「君の名は」も劇場に見に行ったものの、口噛み酒のあたりで同級生の気持ちわかるわ~となった記憶の方が強いので人前では「見た」という事実以外は口にしないようにしています。
基本的に考察タイプじゃない人間です。
しかも言語化が得意じゃない。
本作はそんな人間からすればおそらく「考えさせられる作品」という一言にたどり着きそうなものでした。
が、それをぐっと抑えて少しでも具体的にかみ砕いて消化していこうと思います。


■あらすじ
九州の静かな町で生活している17歳の岩戸鈴芽は、”扉”を探しているという青年、宗像草太に出会う。草太の後を追って山中の廃虚にたどり着いた鈴芽は、そこにあった古い扉に手を伸ばす。やがて、日本各地で扉が開き始めるが、それらの扉は向こう側から災いをもたらすのだという。鈴芽は、災いの元となる扉を閉めるために旅立つ。(出典:シネマトゥデイ)


鈴芽の夢から始まったシーンを見て、既視感を覚えた。
見進めていくうちに、そういえば公開当時「津波や地震の描写がある」という注意喚起のようなものを見かけたな、というのを思い出してそこへと繋がるわけですが、これは後述することにします。

さて、おばさん(環さん)と暮らす鈴芽の何気ない一日の始まり、そこで出会った美青年・草太という非日常というのはだいぶ少女漫画。
見始める前に友だちから「草太さんがイケメン」ということだけ教えてもらったのですが、環さんの年に近い私からすると、出会い頭に
「ねえ、君。このあたりに廃墟はない?」
「扉を探してるんだ」
と訊いてくる男、顔が良くてもやばくない?通報案件では?
そんな自分をフィクションを楽しめないつまんない大人になっちまった……とも思いもしたけど、若い女子は特に警戒心を持って生きて欲しい。
まあ、草太さんは泣きぼくろがえっちでしたが。

話を戻します。

この後、学校から引き返して廃墟に向かい、扉を見つける鈴芽。
結果的に要石を抜いてしまうわけですが、その後きちんと登校しているのは偉い。
ただ、周りに見えないものが見えている自分に気付いて飛び出していくあたり、わりと突っ込んでいくパワー系ヒロインであることが伺えます。
ふっ飛ばされた草太さんに迷わず駆け寄っていくのも身体が先に動いているというか。
草太さんに質問攻めにされた時に言い返せるのもすごい。
鈴芽を庇って怪我をした草太さんが病院を拒否→家に強引に連れ帰って手当という流れも強い。
(でも知らない男を家に上げるのはやっぱり危ないからやめなさいね!)

■草太さんが椅子になった必要性
要石だった猫(ダイジン)によって呪われ、椅子にされた草太さん。ダイジンを追いかけてふたりはフェリーで愛媛へ上陸する羽目に。
かわいい猫ちゃん・走る椅子として拡散されていくのは現代的で面白かった。
とはいえ、謎のイケメンを助けたら母の形見の椅子にイケメンが宿る、ってなんだそれ。(褒めてる)
少しメタい話になりますが、草太さんは椅子にされたことで可愛さが5割増しになったと思っています。寝相も寝起きも悪い、ということが椅子で表現されるのは非常にユーモラスだったし。
鈴芽の「すっごい寝相……」って台詞の言い方もよかったな。
そして「君は家に帰れ」「いままでありがとう」「気を付けて帰りなさい」とか偉そうに言いながらも電車に乗れない草太さん(椅子)、非常に萌え系です。
ルミの子どもたちを相手にへばっている鈴芽を見て、一肌脱ぎましょうとばかりに出てくる草太さん(椅子)も、最新AI搭載ロボとして遊んであげる草太さん(椅子)もとてもいい味だしてた。

ただ、そんなかわいい草太さん(椅子)も、鈴芽が座ることを拒否したあたりで、ふと、「あれ?これってもしかして人間椅子ってこと……?」と気付いて背筋が寒くなりました。
こんなに一般的に大ヒットしたけど、こういうところが新海誠ワールドってこと?(褒めてる)

■鈴芽の出会う人たち
本作の中で非常に良かったのは、鈴芽が出会う人たちがまともだったこと。
近年、この手の大人も対象としているアニメのヒット作って、いわゆる毒親だったり、そこは普通止めるだろ?!みたいな大人が沢山出てくる印象があって、私自身が大人なことも相まって楽しめない理由のひとつだった。
しかし本作で鈴芽の出逢った人たちはそういうストレスが無い。

・千果
船で愛媛に降り立った後、ダイジンを追って山道を歩いているなか偶然出会った同い年の女の子・千果。
千果は挙動不審な鈴芽のことを「魔法使い」と言い、ミミズを倒して泥だらけになったらしい鈴芽を家に連れ帰っても、おそらくご家族にはただの友達として紹介してお家に泊めてくれる。最終的に制服だった鈴芽に、それだと目立つからと私服までくれる。
男の子と付き合った経験があり、メイクもしている。普段、九州の小さな町で暮らす鈴芽の周りにいないような、少し早熟な女の子との間で育まれる友情は眩しくて、かわいい。
私も中学生の頃に文通やメル友みたいな存在がいたけれど、そういう、普段とは違うフィールドにいる人との出会いは刺激的だということを思い出させてもらった気がする。

・ルミ
千果と分かれた後、雨の中さびれたバス停で6時間後にしかこないバスを待っている二人に声をかけた女性、ルミさん。
女の子がヒッチハイク危ないよ~~とやっぱり思っていたので親切なおばさんに拾ってもらって良かったな~~と安心した。
しかし子守りからのスナックの手伝い(裏方)させられるとは思わなかったけど。笑。
まあ、そういうこともあるか。……ある、か?
とはいえここでも鈴芽が変な客に絡まれることなく、周りがフォローしてあげるので良かった。
鈴芽はその後ミミズを倒しに行ってしまうけど、拾った子が突然飛び出していったのに、キレるより心配して叱るのもいい人過ぎる。
夜中にカロリーごっつい焼きそば食べてるのもいい人過ぎる。

・芹澤
そして今回一番のいい人、芹澤君。
いくらなんでもいい人が過ぎる。
そりゃ、一緒に教員を目指していた友達が試験会場に現れなかったらめちゃくちゃ心配する。するけど、だからってその後知らない女の子とそのおばさんを乗せてわざわざ7時間半も車走らせられないでしょ。
通行人から二股疑惑で白い目を向けられ、闇深いな~と思いながらも女二人を車に乗せ、ともすれば親に近いくらいの年の女性に泣かれ、食べかけのソフトクリームも落としてしまう。
最終的に事故って車も壊れるのに、笑って「いいなあ、草太の奴」で終わらせられるとかある?
学生証の写真が黒髪で、おそらく大学デビューでチャラチャラした格好をしているところも含めて良さ人過ぎる。
草太さんに2万貸してるから、なんて理由をつけて送って来たのが、実は逆で借りてた、ってところまで完璧過ぎた。
幸せになって欲しい人ナンバーワン。

■「ドキドキする」
鈴芽が船を降りる前、夜明けを前にして言った「ドキドキする」という言葉。草太さんの「すっごい寝相」からの流れはテンポ的に、少ししっくりこない。
けど、千果やルミとの出会いを経て考えると、自分の町からおそらく初めて保護者ナシで飛び出したことに対する高揚感としてはこれ以上の言葉はないのかもしれないなと思えた。
自分の町から出て、知らない場所へ。
九州の穏やかな地方で育った高2にとっては大冒険だよね。

とはいえ、合間合間に挟まれる、環さんの様子から、突然ここまで突飛な行動をされたらその心労はいかほどか……いまはICカード搭載スマホを持っていれば子どもでも簡単に遠くまで行けてしまうんだよな~と、最近の親御さんて大変なんだな……と思ってしまったのは否めなかったけれど。
願わくは、この映画をみた若い子がそういう家出をして危ない目に合いませんように。

■死ぬことは怖くない
愛媛の中学校でミミズを閉じた際、草太に「君は死ぬのが怖くないのか?」と訊かれて「怖くない!」と即答したところで、鈴芽の過去にはなにかあるんだろうなと思った。
でも、神戸の観覧車の時は終わった後に気が抜けて「怖かった」という。
しかし草太が要石となったあと、「生きるか死ぬかなんてただの運なんだって、小さいころからずっと思ってた」という言葉。
それらに詰められた死生観と、「地震や津波の描写」という前情報から想像した展開は概ねあっていました。

■絵空事
ここから少し東日本大震災の話を挟みます。
最初、鈴芽の夢に出てきた景色に既視感があったのはやはり間違いではなくて。建物の上に乗り上げた船は、関東住まいの私でもニュースで多く目にし、とても印象に残っています。
私は当時もう成人した大人だったし、被災者でもないけれど、あの震災で多くの人たちが傷ついたことは理解しています。
だから、芹澤に車で連れて行って欲しい場所が東京から車で約7時間半かかること、鈴芽の書いた日記の日付が3.11だったこと、それらを紐づけていけば鈴芽と母が暮らしていた場所が東北地方であることは容易にわかった。
というか、この映画を見た人たちが容易に気付かなければならないと思った。
2011年に起こったあの震災から10年以上が経って公開されたこの映画はもしかしたら、きれいごと、ととられかねないものかもしれません。
綺麗なアニメーションで、出来るだけ当時のことをダイレクトには想起させないような演出で、けれどいくつもきっといくつも震災の欠片が散りばめられているんだと思う。
結末だって被災者当人には響かないものかもしれない。
薄っぺらい、ありきたり、と思う人もいるかもしれない。
けれど、それでも、「忘れてはいけない」ということと、「前を向く」ということ、そして見る側を「考えさせる」作品であったと思います。
私は今回この作品を見てよかったし、定期的に見直したい。
「あなたは光のなかで大人になっていく」
「私はあなたの明日」
「いってきます」
夢見がちだけれど、素敵な言葉がたくさんあった。


■恋愛要素は薄い、けど、ちょうどいい
さて、少し話を戻して。
この作品はミミズにより自然災害が起こる→大勢が死ぬ、ということを回避するために動いている話なので、どうしても恋愛要素は薄い印象があります。
しかしそのわりに、100万人の命と草太一人の命を天秤にかけたり、要石になった草太さんを救うために「私が代わりに要石になるよ!」と言ったり、常世に足を踏み入れたりしているので、やってることはまあまあ重いです。それにこうやって上げてみるとパワー系ヒロインがすごい。
草太さんもわりとヒーロー然とした動きはしているけど全体的に椅子なので、それも相まって鈴芽が強く見える。

そんななかで草太さんを助けるとき、「もっと生きたい」「死ぬのが怖い」「もっと生きたい」「声が聞きたい」「ひとりは怖い」というふたりの言葉は、恋愛以上に多くのものを込めた言葉であったことに違いなく、けれどそれと同時に互いへの強い想いがあることを感じさせたと思います。

ただ、前述したとおり、草太さんは本編のだいたいが椅子だけど、人間のときはイケメンだし、普段は大学生でモテていることが描写されているのも良い。
思い返してみると、鈴芽が草太さんを見て最初に言ったのが「綺麗」っていうのも良い。

そして最終的に東京に戻る草太さんと駅のホームで分かれるとき、一度電車に乗った草太さんが下りてきて鈴芽を抱きしめるの、思わず声出た。
え?なんで一回乗った?え?
は?お、お前……?!モテが過ぎんか?!?

私は「時をかける少女」の千明が大好きなのですが、このシーンの草太さんは「未来で待ってる」のシーンを彷彿とさせて非常~~~に良かったです。
恋愛であって親愛というか。下手にキスとかしないでくれて助かる。
(鈴芽は高校生なのでキスすると犯罪になるしね!)
きちんと最後に再会して終わるのも綺麗にまとまっていて気持ち良かった。

あ、環さんと稔さんは上手くいってくれるといいなと思います。

■最後に
おそらくこの作品には自分の主観、感情に左右されるような悪役がいなくて、だからストレスに思う部分も少なかった。
EDに鈴芽と環さんとお世話になった人たちのところに寄りながら帰るのも、ほっこりしたし。
間違いなく「考えさせられる」作品ではあったけれど、「考えたい」作品だったと思う。

思ったより長々とした感想になってしまった。
これから人様の感想・考察を読んで理解を深めようと思います。

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