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宇宙とエントロピーと命と経済

だいぶご無沙汰しておりました。
新しい本を執筆しておりましたので、
こちらに書く時間が取れずにおりました。
が、書きたいことはたくさんあります。

今日は「宇宙とエントロピーと命と経済」という話をします。
「部屋とYシャツと私」みたいですね。
「セックスと嘘とビデオテープ」みたいでもあります。
でも4つあるので、どちらかというと
「酒と涙と男と女」の方が近いですね。

今日の話は端的にいうと、このままでは資本主義はヤバいので、
お金を分配しろという話です。
なぜなら、資本主義という生命体にとって、
若い時代というのはみんなが満遍なくお金を持っていて、
そのお金をどんどん使うという状態、つまり代謝がいい状態であり、
大金持ちが生まれて貧富の格差が開いていく状態は
代謝が悪い状態であり、老年期の状態ということだからです。

お金持ちがいるという現象は、実は資本主義を殺すのです。

このままでは金持ちを金持ちたらしめている資本主義は
死んでしまいますので、まぁ、私はそれでも構いませんが、
死にたくないなら分配してはいかが? ということですね。

その話を「宇宙の始まり」という壮大なところからしてみようと思います。
なんて面白そうな話なんだと思いませんか? 私は思います。

宇宙というものがどうやって今の状態になったのか。
それを簡単に説明してみます。

まず、ビッグバンという大爆発が起きましたね。
最初のうちの宇宙はものすごく高温の状態で、
物質など、引力(と質量と重力はここでは同義ってことにします)を
持ったものの分布はほぼ均一だったそうです。

均一というのは、例えば広い海のどこの水をすくって調べても
成分も温度もほぼ同じというようなイメージです。
広い宇宙には星などひとつもなく、全てのものが一体となって
ただ広がっていたということですね。

ところが、だんだん熱が冷えてくると、物質も落ち着いてきます。
するとものすごく小さな引力を持った物質同士がくっつくようになります。
互いに引っ張り合いますからね。
そうして微妙に引力の強い場所ができて、
そこにさらに物質が集まり始めます。
物質が集まると引力も強くなって、よけいにどんどん集まってきます。

こうして重力が強い場所と弱い場所の濃淡ができ、
濃い場所ではガスや塵が集まって、それがやがて星や銀河になります。

星たちは重力によって周りの物質を引きつけながら、
どんどん質量を増し、やがては自分の引力によって押しつぶされ、
星としての一生を終えます。

宇宙は今も膨張を続けていますが、
やがてはその運動は収縮に転じ、最終的には一点に収束して
宇宙の一生も終わると考えられています。

このような一連の流れは、
すべてが「時間の矢」を示すエントロピー増大則に従っています。
誰かが意図したわけではなくて、自然の流れの中で起こることですね。

ここで重要なポイントは、
互いの引力に引き寄せられたガスや塵が星になり、
やがて自分の重力によって押しつぶされるということです。

エントロピー増大則というのは、時間の流れの中で、
物事の変化は、乱雑性や無秩序さが増大する方向にしか
発生しないという法則です。
水槽の中に垂らした一滴のインクは、
それが拡散する方向にしか変化しません。
自然の流れの中でそれが一滴のインクに戻ることはあり得ないということ。

そこから転じて、
自然の流れによって起こる時間軸上の変化は一方向である、
ということが言えるのです。
物事が秩序を失っていく方向ですね。

この法則は熱力学の第二法則なのですが、
第一法則(エネルギー不変の法則)と並んで
この大宇宙の最重要ルールと言えると思います。

エントロピー増大則によると、あらゆるものが無秩序さを増大しますから、
岩はだんだん小さくなるし、クルマはだんだん古くなります。
自然の力で砕けた岩が自然に元のようにくっついたり、
古くなったクルマが新品に戻ることはありません。

しかし、エントロピー増大則に唯一、逆らっている存在があります。
それが「命」なんですね。生命です。

無機物(命ではないもの)はときの流れの中ですぐに風化します。
しかし命があるものはその風化に耐えます。
例えば私はもうすぐ51歳になりますが、
どうして51年もの間、私自身をやりつづけていられるのか、といえば、
ご飯を食べ、排泄をすることによって
古くなってしまうよりも速いサイクルで
体の中身を入れ替えているからなんですね。

「代謝」です。

自分自身の細胞をコピーしてどんどん入れ替えている。
だから私はずっと私なのです。
このように代謝することでエントロピー増大則に抵抗し、
朽ちていく速度を遅くしているのです。

それが生命です。

このような現象を「動的平衡」と言います。
自分を保つために、
自分の中側を活発にどんどん入れ替えるということです。
しかし、そのサイクルも年齢と共に衰えます。代謝が悪くなりますね。
そしてやがて動的平衡が失われるとき、死んでしまうというわけです。

宇宙の法則に抗うなんて、生命ってすごいですね。

宇宙とエントロピーと命まできたので、最後は経済です。

重力によって塵が集まり星が生まれ、
そして自らの重力によって死んでいく。
この様子は、実は資本主義経済と似ていると思っています。

お金はお金のある方に引き寄せられ、どんどんと力を大きくします。
今、格差が広がっていることが社会問題になっていますね。
ものすごい大金持ちが存在しているということです。
このような社会は、経済が進化した形だと勘違いする人も多いですが、
私は完全に逆だと思っています。

これは資本主義が死ぬ寸前の姿だということです。
なぜなら、お金は一部のお金持ちの手の中に集まってきますが、
そのお金はすべて「市井の民」の手から移動したものだからです。

経済というのはお金の送り手と受け手が両方存在して
初めて成立する関係ですが、
このままではお金持ちへのお金の送り手である市井の民が
健全に存在できない状態になるからです。

星が自分の重力に押し潰されるように、
資本主義は富裕層が自らのお金を吸い取る力に押し潰されて
内側から崩壊することになるでしょう。
これはこのままであれば間違いなくそうなります。

なぜならそれが自然のルール、エントロピー増大則だからです。
でも、その力に抗うものがありましたよね。

そう、命です。

経済の中における「命」とは、
「代謝」とか「循環」を意味します。

時間の矢が一方向に進んでいく流れの中で、
必然的に終わりを迎えるはずの生命体が
そのときを少しでも遅らせるために採用しているメカニズムが
動的平衡であり、それは代謝によって実現されているものでしたよね。

経済の世界での代謝とはなんでしょうか。
お金を回すことです。

お金がひとところに滞留していることで
社会のエントロピーは増大してしまいますから、
エントロピーを捨てるためには
富裕層が「分配する」という大転換を行う必要がある。
お金持ちが存在しているということは、
社会の血流を滞留させている存在があるということと同義なのですね。

それは社会を不健康にし、終わりのタイミングを早めます。
もし資本主義経済の持続可能性を伸ばしたいと思うなら、
富裕層は今、過剰に手にしているものを手放す必要があるのです。

果たしてそれができるかどうか。

結局のところ、人間の心が己に打ち勝てるかで、
社会の存続は決まるということです。

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