【映画記録】爆発しそうに熱い情
映画「新幹線大爆破」を観た。
今よりずっと治安が悪く、学生運動が盛んだった1970 年代。スマホは勿論携帯電話もインターネットも無い時代は、電話をかけるにも公衆電話を探すところからはじめなければならず、人を探すにも足を使うしかなく、電話の逆探知に何十秒もかかるという、現代と比べれば遅い、しかし地に足がついたスピード感で世界が巡っている。こんな時代の方が、人は人らしかったのかもしれない。
そんな中で、新幹線だけが図抜けて速い。この浮足立った鉛の化け物でテロを起こしてやった犯人グループの首魁が、かの名優・高倉健が演じる、沖田哲夫だ。これがまた人情に熱い男で大変良い。新幹線の乗客千五百人を巻き込んだテロなんて、絶対に正当化されるものではないが、高倉健の演技の説得力があまりに凄まじく、うっかり犯人の側に情が移ってしまいそうになる。
この映画で際立っているのは「失敗」だ。
鉄道会社は車輪に取り付けられた爆弾の撮影に失敗し、車掌は乗客をなだめすかすのに失敗し、犯人グループは金の回収に失敗し、警察は犯人を生け捕りにするのに何度も失敗する。失敗です、と報告されるたび、沈痛な空気が流れる。解決が遠のいて行く。この事件にはタイムリミットがあるのに。
面白いのは、この失敗が他人の鼓舞になるというところだ。警察が犯人確保に失敗したという報を受け、鉄道会社が「やっぱり自分たちで何とかしなければ」と俄然前のめりになる。犯人が金を置いて逃亡すれば、警察は更にやる気を出す。警察が誤って犯人グループのメンバーを殺してしまうと、高倉健がキレる。失敗が伝播して、物語が軽快に転がってゆく。
失敗は成功のカギ、なんて名言があるが、この映画に限ってはそういうわけではない。誰も、失敗を踏まえて成功をつかみ取っているわけではない。たかだか失敗ごときで諦めている場合ではないのだ。だって、日本の技術の集大成である新幹線と、その乗員千五百人の命、爆発する場所によってはそれ以上の人の命がかかっている。
こういう、ギリギリのシチュエーションで走り回っている仕事人間たちのことが、高倉は大好きです。同じ理由で映画「シン・ゴジラ」が大好き。見せる人間味は最低限にして、只管仕事に邁進しているその部分だけを切り取って見せてくれる映画こそ、真のお仕事映画であるし、高倉もそういう仕事人間に憧れている。
そして、決死の覚悟で英断を下し続け、誰よりも立派な働きを見せてくれた総合指令所の倉持運転指令長。精神的に追い詰められていた運転士を支え、役に立たない警察に早々に見切りをつけ、乗客を救うために奔走し続けた、人情に熱い仕事人。ラスト、彼が泣きそうに憤り、振り返ることなく去っていくその姿が目に焼き付いて、ずっと消えない。