質より量の3つの結末
300回の真意
プッシュアップ、スクワット、シットアップ、レッグレイズ各300回。
ミカエルから出された宿題だ。
多分、次のセミナーでも同じ宿題が出るだろう。
「質の良いトレーニングとはなにか?」という問題があるけど、ミカエルからはトレーニングの質について聞いたことはない気がする。注意点といえば「怪我をするな」くらい。
むしろ「量」を重視する。
エクササイズ各300回もそうだし、セミナー中のワークも「右100回、左手100回、両手で100回やるように」みたいなことを冗談半分でいう。
これは冗談半分だけど、たぶん半分は本気だ。
「そのくらいやればうまくなるけど、まあやらないだろうね。別に無理強いするつもりもないよ」というニュアンスだろう。
だとすると、やればやるだけうまくなるということだ。
練習せずにうまくなることはない。練習すればうまくなる。これは当然だ。練習効率を高めるとか、質を考えるとか、そういうのは練習せずに強くなろうとする怠惰さの合理化なんじゃないか。
私は武術をやってる頃に、たまたま似たような問題を体験した。
身体の使い方を工夫し、質の高い稽古をする。それも良かったけど、何か違う。それで仲間を集めて、ひたすら数をこなす練習をやったのだ。結果としては後者のほうが圧倒的に効果があった。まあ試合のない武術なんで、主観的な感触だったり、技を受けた人の感想くらいしか指標がないんだけど、数をこなす稽古のほうが変化が大きかったのだ。
だからミカエルが「たくさんやれ」というのも、「まあ、そうですよね」とすんなり理解できたりする。モスクワ本部でも延々とクローリングやローリングでジムを回ったり、走ったりといったことをやった。それもかなりのハードワークなんだけど、昔のミカエルの指導はそれどころではなくて、全員ぶっ倒れるまでしごきぬかれたらしい。結局、強いのはそういうハードワークをくぐり抜けた人だったりするのだ。でもそれだと振り落とされる人がたくさん出てくる。どうしたら脱落者を減らせるかと考えて、指導法が洗練されていくのだ。これはシステマに限らず、多くのスポーツや武術などが普及する過程でみられる傾向である。
量をこなす3つの結末
結局、量をこなせば上達する。どんなにセンスがなくても努力量で圧倒すれば天才をも超えられる。そういう量をこなす式の練習に取り組む場合、次の3つの結末を想定する必要がある。
1.ちゃんと上達する
2.間違って上達する
3.身体を壊す
1.の「ちゃんと上達する」というのは、意図した方向性での前進が得られたということを意味する。システマでいうならリラックスが進み、ストレスの中でより自由でいられるようになった、ということだろう。身体の省エネ化が進んだ、ということでも良いかも知れない。これがベストだ。
2.の「間違って上達する」もそう悪いものではない。4大エクササイズ300回こなして全身ムキムキになれば、夏のビーチでモテモテかも知れない。リラックスしてないかも知れないけど、普通に基礎体力はあがるだろうし、取っ組み合いにも普通に強くなっているだろう。量をこなす稽古には、こういう「間違っても強くなる」というメリットがある。ただこの類の人が指導者になると、問題がある。間違ったことを伝えてしまうからだ。
もっとも避けたい結末が、3.の「身体を壊す」だ。これはやりすぎで関節を痛めたり、あるいは燃え尽きてしまったりといったことを指す。これの大問題は、練習が出来なくなることだ。すると結局、量を稼ぐことができなくなる。だから3.を徹底的に避け、できれば2.も避けて1.に到達するような練習をひたすらつみかさねることになる。
練習量を積むために
ハードワークをくぐり抜けて化ける人にはある共通点がある。それは「もともと身体が頑丈」と「うまいこと手を抜く」だ。もともとの頑丈さは先天的なものなのでどうしようもないけど、後者は誰にでもできる。手抜きには良い手抜きと、悪い手抜きがある。そのうちの良い手抜きをするのだ。
例えば「300回プッシュアップやれ」というミッションが課せられたとする。悪い手抜きは100回程度で済ませて、やったつもりになってしまう。でもそれはまだマシで、だいたいの人は1回もやらない。さらに悪いのになると、「量をこなす練習なんて下等だ。質が大事だ」なんて屁理屈をこねて、300回やる人を相手にマウンティングしたりする。
良い手抜きは300回やる。やりながら「どうすればもっと楽にできるんだろう」と考えている。で、重心のかけ方とか力の流し方とかあれこれ微調整して、なんとか楽できないかと試みる。実はそれが、動作のクオリティを向上させるうえでの良いトレーニングとなっている。
その一方で、下手に根性ある人は根性で300回やり抜いてしまう。それはそれで良いんだけど、2.や3.に行き着く可能性が高い。
だからどうしたらクオリティが上がるかを常に考えながら、つまりどうしたら楽できるかを探りながらやるべきミッションをこなす。そういう「良い手抜き」が実は1.への道だと思う。
それには「楽したい」という切実な欲求が必要だ。300回にはそういう意味も含まれているんじゃないかと思う。
軽めの負荷から練習を始めたり、ストレッチしたり、リラックスして残余緊張を解消したりといったケアも大切だ。マッサージやサウナで疲労物質を流すのも良い。疲れが早く取れればさらに練習できるし、怪我を防ぐこともできる。
でも万が一、怪我をしたらやっぱり休んだ方が良い。普通にケアをして休む。すると、怪我は普通に治る。するとまた練習できるし、長期的には数を稼ぐこともできる。
ここから先は
¥ 300
お読み頂きありがとうございます。投げ銭のかたはこちらからどうぞ!