仕事において本当に大切なこととは?~数字だけでは測れない価値
仕事において、数値を中心に議論を進めることは、多くの場合、合理的な判断につながり、数値に基づく議論は非常に論理的に響きます。
これには理由があります。数字は指標としてわかりやすく、比較もしやすく、客観的な指標と捉えられやすいからです。
そして、特に効率性を追求する場面では、数値ががより重視されます。
この流れは、資本主義の枠組みの中では自然なことです。
資本主義においては、株主の「利益」を追求する構造が根底にあるため、最終的には数値の改善や効率性が最も重要な要素となるからです。
その結果として、仕事で数値を重視する場面が増えていきます。
「仕事とは最終的に効率性を追い求めること」だと定義されている場合は、何事も数字に置き換えようとし、数字だけを追い求めるという行動・意識は当然のものになります。
仕事とはなにか?
さて、社会でいま問われるのは、現在の時代において、仕事とは本当に「効率性だけ」を追求するものなのかどうか?という点です。
例えば、昨今、「やりがいのある仕事」や「意義のある仕事」の重要性が強調され、パーパス経営といった考え方も注目を集めました。そして、これらの考えに賛同する人々も増え、仕事の捉え方が変わり始めていると感じます。
仕事の定義が少しずつ変化をしていることを感じます。
しかし一方で、依然として多くの事業や組織における判断軸は、「生産性だけを追求する資本主義の枠組み」に基づいたものが大半を占めています。
評価基準も「数字」に偏っており、事業や人事においても、数値で示された成果が大きいほど評価されるという仕組みが根強く残っています。
そのため、やりがいや意義、幸福に対する意識が高まったとしても、最終的には「数値の改善」や「効率性」に重きを置いた行動を取らざる得ないというケースが少なくありません。
ここに、現代の1つのパラドックスが見えてきます。
数値とやりがい、共存できるか?
「やりがいが大事なのか、数値が大事なのか」という問いが生じることがあります。しかし、この問いに対する答えは明確で、「どちらも大事である」ということに尽きると思います。
どちらか一方を選ぶのではなく、両者を共存させることが求められます。
寛容さと、両者が共存できる環境を創り出すことが鍵となります。
数字という目に見えるものと、数値化できなずかつ目に見えないもの。
この両者が共存できる環境こそ、やりがいや社会貢献を実現するための基盤となるのではないでしょうか。
この取り組みは一朝一夕にはいきませんが、まずできることの一つは、これまで当たり前とされてきた意思決定や行動、意識から一度距離を置くことです。そこから、新たな視点で物事を捉えることが始まると思います。
従来の考え方では、数字のみが信用される世界が築かれてきました。
そこでは、数字がすべてを決定し、数字だけで判断しなければ納得できない、または数字に過度に固執する姿勢が強く見られたように思います。
そして論理性とは数字であると捉えられていて、論理性こそ最も重要視されるものと考える人も多くいました。
こうした「数字一辺倒」や「数字が絶対だ」という考え方から一度距離を置くことが、今求められています。
これは決して数字の威力を否定しているわけではありません。
数字以外にも大切な要素があることを認識し、両者をバランスよく捉えるスタート地点に立つということです。
Beyond GDPと数値化できない価値
以前参加したヨーロッパのカンファレンスでは、「Beyond GDP」というテーマが取り上げられていました。これは、経済成長だけでは真の幸福を得ることはできないという考えから生まれたものです。
議論の焦点は「GDPに代わる数値指標をどう見つけるか」というものでしたが、私は「幸福」を数値で評価しようとする考え方自体が、資本主義的な考え方の延長線上にある発想のように感じました。
「幸せは数値化できるものではなく、そして比較されるべきものでもない」という視点を持ってみるのも面白いのではないかと思います。
やりがいや幸せは、他人と比較するものではなく、数値で管理できるものでもありません。それは相対的なものではなく、その人自身の中にある絶対的なものであり、「その人が良いと感じればそれでよい」というものだと思います。
ここにこそ、世の中にある「何でも数値化して管理し、比較し、測りたい」という欲求から一度離れるべき理由があります。
さらに、一人ひとりが他人との比較ではなく、自分の軸でやりがいや幸せ、充実感をしっかりと実感できる姿勢と力を育むことが合わせて重要となります。
人はどうしても他者や何かと比較して自分の幸せを定義しがちです。これも、常に数値で比較することが良しとされてきた資本主義的思考の影響かもしれません。
その思考に慣れてしまっている現状も、大きな課題の一つだと感じます。
数値と非数値の共存
これからのビジネスには、数字で測れる価値と、数字では測れない価値の両方を大切にするアプローチが求められています。
数字や論理を使いこなしながら、同時に感情や目に見えない要素にも寄り添う力を持つことで、仕事はより深みのあるものになると考えています。
(私が提唱しているフルフィリストの考え方も、まさにこの後者に近いものです。)
数値化できるものは分かりやすく扱いやすいですが、数値化できないものは抽象的で理解が難しいため、人々はそれを避けがちです。ここに、これまで数値と非数値の共存が難しかった背景があるのかもしれません。
ここをこれからどう「共存」させることができるか。
そして共存する世界はどのようなものになるのか。非常に楽しみですね。
■フルフィリスト