ノベル集 #4 シリアスなリアルにキック?
絢音は怒っていた。
たった今、恋人の翔太から謎の別れを告げられたばかり。
(はぁ? さっきまでうちのママやお兄ちゃんたちとご飯食べてたのに?)
あのさぁ、なんでもっと前に言ってくれないわけ?うちの毋、他人にご飯奢る趣味とかないんですけど!
ときつい口調で問い詰めると、
いや、家族での食事会だから水さすのも悪いと思って。
少し狼狽えた様子で翔太が言う。
もういいよ。
そう言って、絢音は反対方向に歩き出した。
一旦、解散した兄の千紘と兄嫁になる予定の舞衣に連絡をすると、二人はすぐに引き返してくれた。
そこから始まる、2時間コースの愚痴大会と終わらないカラオケに二人は付き合ってくれた。
うん、どうみても彼氏、彼女と言うよりアイドルとお付きの人みたいだったから!
もっといい人探した方がいいよ。と真顔で舞衣が言う。
絢ちゃんはお姫様キャラだから、絢ちゃんに尽くすのが好き!って人を探した方がいい。
そんなこと言われても・・・
と絢音は頭を抱えた。
お姫様キャラなんて自分で思ったことがないし、そもそも就活の場面でも、面接官に対する返答が、お手本そのものと言われて、最終面接で落ちることが続いていた。
対策本を丸暗記したわけでもなく、自分で考えた答えがお手本通りって言われても、そんなの仕方ないじゃない!!
そして恋の終わりはいつもこのパターン。
こじんまりした造りの容貌に惹かれて寄ってきた男は、意外に自分の意見をはっきり言う絢音に対し、思っていたのと違った。と勝手に幻滅して別れを告げられる。
勝手にそっちが私のイメージを作り出してるだけじゃない。
今までの歴代彼氏を並べて、まとめて蹴飛ばしてやりたい気分だった。
頭の中で勝手にシネマ作ってんじゃないよ!
破局したとき恒例のカラオケ大会に母が合流し、通算何度目かのいつもの失恋ソングを歌ってくれた。
ねぇ、ママのスマホの中、あなたの歴代彼氏の写真が保存されてるんだけど・・・
いや、そんなのさっさと消していいから!
いや、記念にとっておくわ。でも今回は1年はもったわけだし。いいんじゃない?恋愛なんていくつ失敗したって。バツがつくわけじゃないし。
と、ケラケラと笑う母を見て
私にこの個性があったら、恋愛面で苦労しないのかも。と思った。
母の強烈な個性は兄の千紘に引き継がれ、その個性を好きだという人に巡り合って長続きすると・・・
でもね。
母が少し真面目な顔で言う。
絢音の個性はそれだから。世の中全員が私やお兄ちゃんみたいな性格だと、世界が滅亡しちゃうと思うしね。
それは確かに・・・
真正面からはっきりと自分の意見を言う絢音に対し、母と兄は好き嫌いがはっきりしていて、嫌だと思った時点で相手に向かい合うことをしない。
黙ってフェイドアウトしちゃうような人。みんながフェイドアウト型の人間なら、世界滅んじゃうかも。
真夜中までのカラオケ大会に付き合ってくれた(この中で唯一朝から仕事の)舞衣に感謝して解散し、イライラしながら短い眠りについた。
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翌日
私って失恋したんだっけ?
と嘘のように何もダメージを受けてなかったことに気がついた。
私、本当に翔太のこと好きだったのかな?
家で一人で考えていると、いっそうモヤモヤが募るので、とりあえず用もなく大学に向かうことにした。
(研究室に行ったら、誰かいると思うし)
LINEでは友達に散々聞いてもらったけれど、家族以外と会って話したかった。
絢音の大学は、山の頂上にあり、母には毎日が山登りと揶揄されていた。
絢音は駅から歩いて通うのも好きで、時間と体力に余裕があるときはもっぱら徒歩で通学していた。
歩いていると、無心になれるから・・・
(これから趣味の欄にはお散歩って書こうかな。)
そんなことを考えながら、研究室に着くと、まだほとんど学生はおらず、一人見慣れた顔だけがあった。
莉沙さん・・・
彼女は、OGでこの春から教授のお手伝いをするようになった、助手とも秘書とも言える役割の人だった。
年齢は聞いたことがないが、若く見えるが、教授との話の内容から考えると、母より少し若いくらいかな?
と思う。
教授の若い頃の元教え子らしく、時々教授に研究室に戻って研究を続けないか?
と誘われているが、
アカデミックな場が苦手なので。
と笑顔で誘いをかわし、教授の手伝いと学生のお世話という不思議なポジションのアルバイト?をしていた。
絢音に気がついた、莉沙が声をかけてくれた。
絢音ちゃん、どうしたの?
今日ゼミなかったよね?
はい、ないんですけど、暇なんで卒論進めようと思って。
莉沙は絢音の顔を静かに眺めてから口を開いた。
昨日何かあった?
目が腫れてる気がするけど・・・
可愛い顔が浮腫んじゃってるよ?
(さすがによく見てるな)
莉沙さん、さすがですね。
実は昨日彼氏と別れちゃって。
あぁ、そうなんだ・・・
22歳の別れって歌があるもんね。すごく古い歌だか知らないと思うけど・・
22歳って何があるんですか?
うーん。この曲は私の母の世代の歌なんだけど、22歳って大学を卒業して社会人になるじゃない?
そこでみんないったん、自分の人生について考えるんじゃないかな?
人生について考えて、別れるって結論になるんでしょうか?
別れるって結論じゃなくてね、ほら、男って一度にいくつものことができないじゃない?
仕事をしなきゃって考えた時に、彼女のことを考える余裕がなくなっちゃうんじゃないかな?
って、これね、私が22歳の時に長く付き合った人に振られた時に母が教えてくれた歌なんだけどね。
はぁ・・・そういうもんなんですかね。
私、いつも最後彼氏に、好きじゃなくなったかもしれない。って言われるんですよ。向こうから好きって言ってきたのに。
まぁ、本来ね、人の気持ちなんて揺れ動くものだしね。
その彼氏とは縁がなかったってことで!
絢音ちゃんは可愛いし、自分がしっかりある子だから、今からたくさん素敵な恋をして、素敵な大人になってほしいな。っておばさんは思うよ。
ふふっと笑って莉沙は言った。
おばさんなんて、莉沙さん若くてそんなに綺麗なのに。
莉沙は、
まぁ年齢なんてわりとどうでも良くてね。自分の人生を自分の人生を歩けてることが大事なんだよ。
二人で話し込んでいるうちに、学生たちがちらほらと入ってきて、
莉沙は、
またね。
と仕事に戻っていった。
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自分の人生を自分で歩く。
その言葉を心の中で反芻する。
思い通りにならなかった就活、勝手に幻想を抱いては幻滅していく彼氏たち
全部相手があるものじゃない?
唯一、自分の人生は自分で決められるから。
何年か前に兄の千紘が研究職に進むかどうか悩んでいたときに、母が教えてくれた歌に
少し遅れても急いですぐ戻ってくればいい。みたいな歌詞があったかな。うろ覚えだけど
ひとまず、私は今を生きる。どんなにつまらなかったり、思い通りにならないリアルでも。
それが私が今まで生きてきた積み重ねだから。
そんなリアルそのものも愛おしくすら思えてくる。
バイバイ 元カレも、お祈りメールをくれた会社も
縁があればまたどこかで会いましょう。
そんな縁なんて必要ないくらい、素敵な大人の女になってやるんだから
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