バレーボールは、骨を知れば上手くなる
まず第一に私が教えたのは、人間の骨格である。
人体のカラー図鑑を体育館に持って行き、腕はどこから始まっているか、質問をした。
みんな、考えたこともないようだった。リカちゃん人形みたいにくっついているのなら、人間はラジオ体操みたいに腕をいろんな方向に動かせないのだ。
実際には、肩甲骨の端っこと、鎖骨の端っこに、上腕骨がはまっている。
そのことを図鑑で示して教えた。
鎖骨はあんまり動かないが、肩甲骨が動けば、腕が長くも短くもなるのだ。
肩甲骨は背中側で肋骨の上を滑るように上下左右に移動するが、自分の目で見られないので意識することはない。
ブロックをする時は、肩甲骨が外側に滑ることで顔より前に腕が出るし、同時に上に滑ることで、手の長さは最大になって、最高到達点が高くなる。
つまり、肩甲骨を意識できなければ、いいブロックの形にはならない。
最近ではブロックの指先に当てて外に弾かせる、ブロックアウトという技術がスパイカーには必要と言われているが、これはブロッカーにはどうしようもない。ワザと手を下げるとか、手を握ってグーにするとかの対策もあるにはあるが、国際試合でしか見たことはない。
一番やってはいけないのは、スパイクされたボールを、ブロックで触ったにも関わらず、ブロッカー側のコートに吸い込んで落球することだ。
物理的に、ネットとブロックの腕との間に、一瞬でもボール分の隙間があるから吸い込む。
選手たちには、この理屈を口が酸っぱくなるくらい教えた。
毎日、ルーティンの一つとして、シャドーピッチングならぬ、シャドーブロックをさせて、おかしい動きは逐一指摘して、身体に覚え込ませた。
もう一つ。
肘から上が上腕、肘から下が前腕と言うが、前腕の中には骨が何個ある?と聞いた。
ほとんどの子が、1本だと思っていた。
1人だけ、手羽先を食べると2本あるよねと言った子がいたけど、手羽元と混同してはてな?という顔の子も。
ドアノブを回す時など、手をひねる、ねじる動作は、前腕に骨が2本ないとできないんだよ、と図鑑を見せて教えた。
人間の手はねじる方向に不安定な動きをするが、ボールヒットの瞬間に、このねじる動きが出ると、思った所にボールをコントロールすることはできない。
手のひらが全く動かないように固定するか、スナップを効かせて縦方向に屈折させるかの、いずれかしか使わない。
通常、ボールを片手でヒットする場合には、手のひらをグラグラさせてはいけないのである。
それから、組み手パス(アンダーハンドパス、またはディグという)の際、2本の骨のうち、太い方の骨、橈骨をきれいに並べて、面を作らなければならない。
2本の橈骨にボールが50:50で当たるようにイメージしてほしいと伝えた。
この場合にも、肩甲骨は外側に滑らせてできるだけ腕の長さが長くなるようにしなければならない。
自然と、背中は猫背みたいになる。
ということで、毎日の練習始めには、肩関節の可動域を確かめるため、腕を回旋させたり、肩甲骨を上下左右に滑らせる、動的ストレッチをしてもらうので、骨のイメージを絶対に忘れないようにと伝えた。
ただ単にルーティンだからやるのと、理屈がイメージできた上でやるのでは、雲泥の差だ。
このこと以外にも、手のひらがどの方向に可動しやすいかを考えながらオーバーハンドパスをするようにとか、膝は足の指が向いている方向に曲げるようにしないと靭帯に負担がかかるとか、とにかく人体の自然の仕組みを基に、無理な身体の使い方をしないように、まず最初のうちに指導したのだった。
絶対に、大切なお嬢さんたちにケガをさせてはいけない、という信念がある。
それはある意味、勝ち負けよりも大事だと思っている。