【第十一歩】「浜の朝日と嘘つきどもと」の舞台、南相馬市の「朝日座」に行ってみたの巻
朝日座に行ったわけ
2023年4月、福島県南相馬市の朝日座に行ってきた。
映画版とドラマ版がある「浜の朝日と嘘つきどもと」の舞台となった、古い映画館である。
なぜ行ったのかというと、最近ブルーレイBOXを購入し、特典映像などを観て、ふと行ってみたくなったのである。
ワタシは埼玉県久喜市に住んでいるが、定期的に茨城県高萩市に行く要件がある。
そのため、その要件のついでに、東北方面に北上し、南相馬市に向かうことにした。
久喜市から高萩市までは、車で通常一般道+高速で約3時間、さらに高萩市から南相馬市までは一般道で約3時間かかる。
国道6号線を北上する
4月下旬の土曜日、茨城県高萩市の要件が終わったのちに、福島県南相馬市へ向かう。
車で、国道6号線を北上する。
もちろん、高速の常磐自動車道を利用することも可能だ。
だが、一般道の国道6号を利用したのは、沿道には2011年の震災の傷跡がいくつか残されていて、現在それがどうなっているのか確かめたかったという理由もある。
それと、いわき市内はバイバスがあり、平均時速80kmくらいで走行可能である。
また、原発事故の帰宅困難地域付近は、信号も少なく、あったとしてもほとんど青だ。
だから一般道とはいえ、非常にスムーズなルートなのである。
前回このエリアを通過したのは、4年前の2019年3月だったが、そのときは、陸前高田市に行ったときに通った。
今回、少し変わったところはあるだろうか?
震災の痕跡
国道6号線をただ通過するだけの話なのだが、それでも感じることは多い。
双葉町付近に設置している線量計の数字は、1マイクロシーベルトを超えている。
また、ケーズデンキやパチンコ店など津波の影響と見られる被害がそのままになっている建物も多く見受けられる。
これらは、4年前とあまり変わりないように見えた。
変わったのは、いくつか道の駅が増えたのと、新しい大型商業施設もできていたことだ。
それらは復興の足がかりになるのだろうが、まだはじまったばかりなのだなということを実感する。
JR原ノ町駅へ
朝日座の最寄り駅はJR原ノ町駅である。
車で行ったので、直接朝日座近くまで行ってもよかったのだが、周辺の散策もしたかったので、駅の近くに車を駐めることにした。
という目論見はあったものの、一度は駅を通りすぎてしまい、朝日座近くまで行ってしまったところで、逆に戻って駅前の駐車場にたどり着いた。
ありがたいことに、本当に駅の前にあった駐車場は、「3時間まで無料」となっていた。
非常にありがたい。
googleマップによれば、およそ1キロくらい歩いたところに朝日座はある。
いきなりの思いつきでここまで来たので、特に朝日座周辺情報は持ち合わせていない。
原ノ町駅に「朝日座」の案内があるかと思って、掲示を観てみるがまったく見当たらない。
駅の中には、地元の伝統行事の「相馬野馬追」に関する案内のコーナーがあるものの、ここにも「朝日座」関連はまったくない。
というか、駅前の周辺の案内地図にも朝日座は載っていない。
確かに、現在、朝日座は映画館としては営業しておらず、行ったところで建物内部には入れない。
運営、管理しているのもボランティアのような人々のはずで、地元もそれほどは「朝日座」を持ち上げてはいないのだろう。
だが、ここにひとり、わずかに「朝日座」目当ての中年男性がのこのことやってきたのだから、わずかながら案内がほしかった。
駅から朝日座へむかう
googleマップによって案内される道をやや横道にそれつつ、朝日座へ向かう。
すると、かなり飲食店が多いのに気がつく。
喫茶店、小料理屋、居酒屋、食堂などなど…。
現在も営業しているのか、閉店しているのか不明な店も多く散見される。
スナックばかり入居しているビルも存在し、おそらくは、夜はそれなりににぎやかな歓楽街なのかとも思う。
(実際に夜に行っていないので、わからないが…)
食堂も数件見受けられるが、夕方のこの時間は営業しているのかどうかわからない風情である。
おそらくは、映画の中に登場した食堂もどこかにあったはずだ。
ただ、人の往来は少ない。
4月中旬の土曜日、地元の高校生が図書館周辺を行き来する他は、閑散としている。
観光客らしき人もワタシ以外はいない。
というか、ワタシも観光というよりは、ただ、朝日座を観に来ただけの中途半端は観光客であるのだが…。
このように駅の周辺は、車の往来はそれなりにあるが、人はほとんど歩いていない。
これは、地方の人口の少ない駅の周辺であれば、ありがちな風景と思われる。
朝日座に到着
「浜の朝日と嘘つきどもと」の映画版の中で、茂木莉子(高畑充希)が朝日座までたどり着くシーン。
朝日座までスマホの縦にしたり横にしたり、やや道に迷いそうになりながらやってくるわけだが、ワタシにはこれがやや不可解に思われた。
映画館ならば、もうちょっとわかりやすい場所にあるのではないかと。
だが、実際に来てみてわかったのは、このシーンは決して誇張でないということだ。
朝日座は決してわかりやすい場所にあるのではない。
このように駅からは約1キロあり、徒歩15分。
地図上では、駅から素直に来れば、大通りをまっすぐ進み、とある交差点を右に曲がれば着くのだが、ちょっと横道から行こうとすると単なる住宅地と繁華街の境を行くことになり目印はない。
朝日座周辺もかつては賑わっていた印象があるもの、現在はさびれている。
だから、朝日座は歩いていると突如現れる。
「ASAHIZA」がいきなり出てくる感じである。
こんなところに「映画館」がよく残っていたものだ。
「ASAHIZA」の赤い文字が輝かしい。
朝日座の存在感
古い映画館ということでは、同じ福島県の本宮市にある「本宮映画劇場」に行ったことがある。
こちらも「朝日座」と同様に現在は営業していないが、建物は保存され、不定期に上映会を行っているという映画館である。
「本宮映画劇場」は、かなり建物が大きく存在感があった。
だが、外観はかなり老朽化が目立ち、壁が剥がれたり、窓ガラスが割れていたりと、廃館した映画館という寂しい雰囲気が印象に残った。
だが、この朝日座は違った。
この「ASAHIZA」という赤い看板というか、文字サインが効果的なのか、堂々とした佇まいが素晴らしい。
あとは、外観も修繕したのではないだろうか?
とてもきれいである。
まさに映画のロケセットのように…。
当然ながら、この日は中に入れることもなく、その場の周辺をうろつくのみだが、ここで映画が撮影されたと思うとやはり感慨深いものがある。
映画館というのは、閉館したとはいえ、何か人の気配を残しながら佇んでいる。
道路からの入り口にかつて次回作などを案内したと思われる案内版に、この建物に関する情報がいくつか貼られている。
開館日や、「浜の朝日と嘘つきどもと」のポスター、周辺ロケ地情報などである。
なぜか、開館日は平日なのはもったいないとしかいいようがない。
この4月はたまたまだったのかもしれない。
だが、ウェブ上を観るかぎり、最近の開館日の情報はアップされていないようなので、直接連絡先に電話確認するしかないようだ。
ワタシが知るのは、「浜の朝日の嘘つきどもと」という映画、ドラマの中での朝日座に過ぎないが、それを差し置いてもこの建物は、もっと観光地として盛り上げてもいいように思えた。
映画の痕跡
「朝日座」を後にし、駅までの道中、ロケ地マップにあった喫茶店「喫茶いこい」に立ち寄る。
いわゆる古い昭和テイスト喫茶店なのだが、このような地方の喫茶店は未だに全席「喫煙可」のところがある。
ワタシは極度の禁煙主義者で、たまにいる歩行喫煙者の煙も避けてとおるほどだが、当然ながら、喫茶店でのたばこの煙はご勘弁願いたいのだ。
10年くらい前までは、東京でも衝立も何もないままに喫煙席と禁煙席をわけていた飲食店も存在したような気がするが、現在はほぼどこも禁煙の店が増えたように思う。
しかし、地方の状況はまだまだ、喫茶店といえば、たばこが吸える場所というところがまだある。
禁煙席すらないのだ。
だが、この「喫茶いこい」はそうではないようだ。
おそるおそる入ってみるとたばこの臭いはせず、客は女性客数名しかいない。
ワタシのねらいは、コーヒーでもなく、やきそばでもなく、映画の痕跡を伺わせる何かなのだが、店内を見回したところで何もなかった。
ニセ観光客としては、また、善良な映画ファン、または、善良な高畑充希ファンとしては、わずかに南相馬市でお金を使った方がよいと思われ、コーヒーとやきそばを注文した。
店内にできれば、映画撮影時の誰かのサインないしは、ロケ風景の写真などあったらよかったが、そういう商売はしないということなのだろう。
営業時間は午後6時までということだが、そこにいたのは既に5時半くらいだっただろうか?
期待するものは何も得られないまま、その喫茶店を出た。
最後に
数年前、広島の原爆ドームに行った際に痛感したのは、実際に現物を観ることの重要さである。
それ以降、なるべく気になった場所に「実際に行く」というのを可能なかぎり実行するようにしている。
富裕層ではないから、そんな時間を作るのも限られるのだが、行ってみたいと思ったところは、時間が経過しても行ってみたいと思っている。
今回の「朝日座」も実際に行ってみてよかったと思っている。
実物の迫力はやはり「百聞は一見にしかず」としかいいようがない。
【参考】